石に躓いて倒れた先に

神社巡り

第1話 なんて格好をしてるの?

 いつもの様にオフィス向かっていると奇抜な格好をした不思議な少女と出会った。

 少女はきょとんとした面持ちで通勤中の大勢の中を一人立ちすくんでいた。

 人々はその奇妙な少女を横目で見ながら腫物の様に避けていく。

 通勤ラッシュ時なのに少女の周りだけぽっかりと広場ができていた。


「ここはどこ?私はだぁれ?」


 少女は途方に暮れた様子でブツブツと独り言をつぶやいている。

 少女の事があまりにも気になった私は声を掛けてみる事にした。


「君…その変な格好は何かね?」


 少女はゲームに出てくる神官みたいな格好をしていた。

 コスプレだとしても通勤時のオフィス街でのその格好はかなり痛い。


「誰だよ!お前は!」


 可愛い顔に似合わず強い口調で少女は言った。しかもため口だ。

 年の頃は17か18ぐらいの少女が、遥かに年の離れた私に言う言葉遣いでは無かった。

 私はこれでも会社の役員で剥げた見た目も風格が漂う58歳だ。

 メタボで肥えたこの体も、より一層の威厳を醸し出している。

 17か18くらいの少女にため口を訊かれる筋合いは無い。


「君…年長の者に対してその口の聴き方は何かね…?」


「ウゼェよ!それにキメェんだよ!」


 少女は何故かキレていた。

 躾のできてない子供はこんなものなのだろうか?


「それよりおっさん!ここは何処なのよ…」


 私は愕然とした。今までおっさんなどと言われた事は無かった。

 口の悪いこの娘の勢いに圧倒されていた。


「オフィス街の駅前です…」


「おふぃすがい…?」


 圧倒された私はこの小娘に敬語を使っていた。

 すると少女はたどたどしい日本語でオフィス街と繰り返す。


 やはり少女はオフィス街という簡単な日本語もわからない痛い子だった。

 私は無かった事にして少女を無視しオフィスへ向かう事にした。


「待てよ!おっさん…置いてくんじゃないわよ!事情を説明しやがれぇ!」


 置いて行こうとした私に少女は食って掛かってきた。

 物凄い剣幕で素通りした私の後を付いてくる。


 寧ろ事情を聴きたいのは私の方だった。

 少女に問い詰める筈の私が何故だか問い詰められている。

 関わるのは懲り懲りなので聞こえないフリでオフィスに向かう。

 しかし少女は困った事に、いつまでも私の後を付いてくる。

 このままでは頭の弱い女の子とオフィスに仲良く御出勤だ。


「おっさん…事情をちゃんと説明しろ!」


 開いた口が塞がらなかった。私は何を説明したら良いのだろう?


「あのね…事情を聴きたいのは寧ろ私の方なんだけど…」


「何の事情だよ…おっさん、ウケるぅ~」


 少女はケタケタ笑い出した。さすがに私は哀れに思えてきた。

 日本語が通じない。


「私は勇者パーティーの一員だよ…この姿、見たらわかるよね…ハハハハハハ…」


 頭が痛くなってきた。迂闊に声など掛けなければ良かった。

 警察に連れて行っても、この性格だとかなり面倒になりそうなので出来ればひっそりフェードアウトしたかった。


「あの~私、トイレに行きたいのですが…?」


「駄目だよ…逃げるつもりだろ…」


 少女は感が鋭かった。笑顔で笑っているが眼光は鋭く光っている。


「どうしても行きたいなら私も付いてくぞ!ハハハハハ…」


 高らかに張り上げる笑いは狂った様に私の耳にこだました。


 駄目だ!こうなったらトイレの個室の窓から逃げるしかない!





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