第36話 薫風


 用意された待機室で四時間ばかり、待ち続けて窓を開けると薫風が流れ込んできた。


 空地には溢ればかりの白詰草が咲いていた。




 昼ごはんに売店のコンビニでおにぎりを買い、食べ始めたが味がしない。


 普段無口な伯父もため息ばかりついていた。


 伯母も同伴した夫に愚痴りながら泣いてばかりだった。


 介護施設に勤める母も普段は気丈で決して弱音を吐く素振りを見せないのに俯きがちにため息をついていた。




 祖母は車内で異変に気づき、車をすぐに停止させ、その場で119番に通報したという。


 運ばれた病院で医師がとっさの判断で、脳内の血管が破裂していると判断し、カーテル手術ができる藤元総合病院に緊急搬送されたのだ。


 あのとき、機転を利かしたお医者さんには感謝してもしつくせない。


 手術室に運ばれた祖母は発見が早かったおかげで意識が混濁しても、多少なりとも返事ができた。


 祖母を見送った私たちはふたたび、待機室へ戻り、文字通り耐え続けた。


 一分間が途方の無い長さに感じられた。


 何を飲んでも味がしないし、置いてあったテレビをつけてもコロナ関連のニュースばかりで余計に気が滅入りそうになった。



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