第31話 伝説
この地域には狭野尊(さのみこと)の伝説があり、どこか、政治的な主張とは関係なく、ここに太古の昔に人々の営みがあって、大噴火によってその日常が失われた、と実感できた。
祖父と御池に行ってこんな会話をした。
「南九州では何万年も前から大規模なカルデラ噴火で降灰を繰り返し、そのたびに縄文人は生活を徹底的に破壊されたんだよ」
祖父はもう一つ、狭野尊、のちの伝承では神武天皇のことについて言及した。
「戦時中の時はすごかったんだよ。じいちゃんは全部歴代の天皇の名前を覚えさせられたんだよ」
幼い12歳の私はこう言った。
「その神話って噴火で逃げた話じゃないの。もし、カルデラ噴火や大津波が現代に来たらどうなるんだろうね」
祖父は高千穂の峰を見ながら感慨深く言った。
「大津波や大噴火はいつ来るか分からんからな。日常が壊されることなんて誰にも分からないからな。戦争中もそうだったから」
……当時、2006年の時代、まさか、5年後に大津波が襲来し、原発事故が起こるなんて想定外だったから、この会話だってただの杞憂だと私も有無を言わされず、封印されていた。
今、とても私は後悔する。
環境保護活動家のグレタさんのように勇気を持って、主張すれば、良かったのでは、と御池に行くたびに思うのだ。
もし、あの少女の私が訴えていれば、地球温暖化やあの東日本大震災でも被害が少なかったのではないか、と悔やまれて仕方がない。
あの時の私は勇気がなかった。
大人から流されて、結局は主張できなかったのだ。
同じような不安を予言したような一作の映画がある。
それは『ゲド戦記』だ。
ネット上では批判が多いものの、私はこの映画作品でつらかった少女時代を救われたといっても過言ではない。
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