光を照らしてくれた本屋さん 三月書房

第27話 三月書房


 その町の本屋さんは檸檬で有名な寺町通りにあった。コアな本好きにはよく知られていた三月書房だ。十坪ほどの店内に一万冊ほどの本が天井まで無数に積まれ、その品揃えも独特だった。


 普通の本屋では見かけないような、人文書、歌集、句集、詩集、ガロ系の漫画、ポップな写真集、哲学書、もちろん文豪の作品もあり、中にはアマゾンでも手に入らないような希少な本もあった。


 


 ダヴィンチに紹介されていたので、早朝、京都旅行のついでに立ち寄った三月書房に十七歳の私はすぐに夢中になった。名物の宍戸恭一さんがレジ横で、籠の中にいっぱいに積んだ本を買おうとしている、私に声をかけてくれた。


「今どき、京大生でもあまり読まないんだよ。すごいセレクトの本だね。若いうちからこんなに本を読んでいたら、きっと血肉になるよ」


 


 セレクトの中には哲学者の鷲田清一の本、古典文学を漫画にしている近藤ようこの本(坂口安吾の『桜の満開の森の下』と『夜長姫と耳男』だった)、寺島修司の評論集と中々、書店では手に入らない、三島由紀夫の文芸評論集、最果タヒやランボーの詩集などがあった。


 


 当時の私は解離性障害を発症し、二年近く閉鎖病棟に入院していた。病棟で何をしていたか、と言うとずっと本を読んでいた。あの頃に読んでいた本と言えば、開高健の『輝ける闇』や宮本輝の『星々の悲しみ』、カフカの『変身』、ドストエフスキーの『地下室の手記』、遠藤周作の『沈黙』……。病棟の窓際には常に二十冊ほどの文庫本が並んでいた。


 病状が落ち着いたときは、朝から本を読んでいた。漫画は山岸涼子の短編集や『日出る処の天子』を読んでいた。あの抜けるような秋の早朝に山岸涼子の『スピンクス』を読みふけった感動は今でも忘れられない。


 

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