第25話 理想郷


 もう、行くこともできないスポット。


 それが三月書房だ。


 三月書房は店主の穴戸さんがお亡くなりになり、惜しまれつつも閉店となった。


 今では閉じた三月書房のシャッターに実物大の穴戸さんと店内の様子が描かれたスプレーアートがあるという。  



 そんな粋な計らいをするのも京都らしくて本当に素敵だ。


 初めて三月書房へ踏み入れたとき、ここは私が思い描く理想郷だ、と本気で思った。


 なかなか見つけ出せず、京都市民に聞きながら探し当てた三月書房は梶井基次郎の『檸檬』で有名な寺町通にあった。


 寺町通には京都らしい金物屋やビーズ専門店、個人のアトリエやローカル通な飴屋さんなどわくわくするような商店街が広がっていた。


 純喫茶の珈琲が似合う、涼やかな眼差しを持つホームズのような名探偵が歩いていそうな寺町通に三月書房はあったのだ。


 


 見かけは八百屋さんくらいの大きさの店内だった。


 そんな小さな店内にこれでもか、と本が敷き詰められている。


 それもベストセラーではなく、私が普段、読んでいるようなマニアックな本たちがずらりと。


 入った瞬間、これはやられたな、といい意味で痛感した。


 運命の出会いというフレーズがあるけど、私によっては紛れもなく三月書房だった。


 三月書房の強みは詩歌系の本が充実している点だった。


 普通の書店ならなかなか店舗を裂けない歌集や詩集、句集もずらりと並んでいた。


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