第23話【密談するなら車中に限る】

 天狗騨とリンゼとフリー、それに大家ミルッキはギルドを出ていた。

「わたし〝あの人〟好きじゃありません」ぷんすかしながらリンゼが口にした。他人から見ても明らかに不機嫌と分かる。『あの人』とは明らかにネルリッタ。

「まーたまたまた、リンゼちゃんはお子ちゃまなんだから」と大家ミルッキ。

「なんですか?」

「『おっぱい揉ませてあげる』に腹立ててるんでしょ? どうせ」

「大家さんとはお互い〝嫌な思い出〟を共有しているものだと思ってましたけど」

「だけどさ、それは確かに〝嫌〟だったんだけど、その点テングダさんはさすが大人と思ったけど」

「どこがです? ハッキリ断って欲しかった」

「『揉ませてあげる』と言ってるのに拒否られるとそれはそれで女として悲しくない? だから拒否はしない。でも揉んでない。なんかテングダさんって顔は髭もじゃなのに立ち居振る舞いが〝貴族〟なんだよね、もしかして向こうでは相当の名家の出身だったとか?」

 話の途中で大家ミルッキの顔は天狗騨の方を見ていた。

(イエに異様に興味があるらしい)

「いたって平民だけどな」とそっけなく天狗騨。そこにフリーが絡み始めた。

「これだから女どもは、」などと。

「なによそれ」「どういう意味⁉」と女子ふたりの口撃が一斉にフリーへと向かう。しかしフリーはそれを流し天狗騨の方へと話しを振った。

「テングダさん、あの女、何か脅迫かけてきませんでした?」

「ほぅ」と天狗騨。「鋭いなフリー君、聞こえたとも思えないがなぜ解った?」

「やっぱしっスか、顔の表情を見てなんとなくなんスけど」

「君は記者に向いてるのかもな」天狗騨がつぶやくように言ったとたんに残りのふたり、

 大家ミルッキからは「シキョクインより偉いんですか?」

 リンゼからは「だからわたしたちには何も言ってくれないんですか?」と、立て続けに質問を投げつけられた。そんな中フリーだけがまんざらでもない表情。

 特にリンゼは収まらない様子で「シュザイという行為の意味を教えてください!」と。


(確かに『着いてきてくれ』と言っただけで、『なんのために』は皆には言ってなかったか)


 天狗騨は辺りを見回す。街の中心部だけあって人通りは割と多い。天狗騨は大家ミルッキの方を向いて言った。

「時に私の乗ってきた車は〝馬小屋に置く〟とか聞いたんですが、借りた家にはそんなものは無かったようなんですが」

「〝クルマ〟ってのはもしかしてあの鉄の馬車のこと? ならあれは郊外の別邸だけど」と大家ミルッキ」


 天狗騨は少しだけ考える様子。

「ではみんなで今からドライブと行くか」

「ちょっとテングダさんっ! 訳の解らないこと言って話しを逸らさないでくださいっ!」とリンゼが強引に元の話しへと戻そうとする。

「道端でしない方がいい話しになりそうなんだな、これが」天狗騨。

「それは……?」と一転困惑した様子のリンゼ。

「みんなであの、くる、じゃなくて『鉄の馬車』に乗ろうって話しだ」天狗騨は言った。

「やった、面白そう!」大家ミルッキ。「乗せてくれるんスか?」とフリー。

 しかしリンゼの反応だけは変わらない。

「なんで急にそんな話しが?」

「密室でないとできない話しがある。話しは車の中だ」

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