El Hermano Marciales 〜武闘兄弟〜

平中なごん

Ⅰ 帝国一の武闘会

 聖暦1580年代中頃、初秋……。


「──さすがは大帝国の古都、趣がハンパねえなあ……」


「ああ。預言皇さまのお膝元でもあるしな。世界最強の俺達にはぴったりな街だぜ……」


 古代遺跡の残骸が点在し、どことなく伝統を感じさせる石造りの街並みを見渡しながら、大勢の人々が行き交う往来に混じって筋骨逞しい旅姿の若者二人が感嘆の声を漏らす。


 その日、カリスト・デ・オスクロイとポルフィリオ・デ・オスクロイの双子の兄弟は、かつて古代イスカンドリア帝国の都であった都市であり、また現在は霊的世界の最高権威、プロフェシア教の総本山〝預言皇庁〟が置かれる街〝イスカンドリーア〟を訪れていた。


 さすが双子だけあって、日焼けした彫りの深い顔は確かにそっくりであるが、兄カリストの方は脚の長い長身、逆に弟ポルヒィリオは背が低く腕が妙に長いという目に見えてわかる相違点がある。


 このオスクロイ兄弟、異教徒の支配するオスレイマン帝国との国境近く、神聖イスカンドリア帝国内のカッカデモン司教区領スパルテネックス村に住む一介の漁師であるが、遠きいにしえの時代には優れた戦士を輩出した歴史ある家系であり、先祖代々、〝古代イスカンドリア拳闘術〟という古流格闘技を伝える一族出身であったりなんかもする。


 そんな彼らがこの古都を訪れたのは他でもない。第13回神聖イスカンドリア帝国大武闘大会へ出場するためである。


 神聖イスカンドリア帝国大武闘大会──通称〝帝国一武闘会〟は、四年に一度、ここイスカンドリーアで開催されるエウロパ世界最大の格闘技大会である。


 一切武器を使うことは許されず、徒手空拳のみで勝敗を競う総合格闘技戦だ。


 もともとは帝国軍人の武芸奨励のために始まり、度重なる戦乱と領土の荒廃によって一時中断していた時期もあったものの、近年、神聖イスカンドリア皇帝をほぼ世襲にしている名門ハビヒツブルク家の支援と、また、派手なこと好きな現預言皇レオポルドス10世の意向もあって、再びその往時の盛り上がりを取り戻しつつある。


「おうおう、あっちにもこっちにも貼ってあるぜ。まるでお祭だな」


「いや、まさに祭さ。俺達と…そして、古代イスカンドリア拳闘術の名を世に轟かせるためのな」


 方々の石壁に貼られた帝国一武闘会のポスターを眺め、高揚した調子で言う弟ポルフィリオに兄カリストも意気揚々と頷く。


 己の格闘術に絶対の自信があり、しがない漁師として田舎で一生を終えることを良しとしない彼らは、この大会に出て名を広め、どこかの王侯貴族に召し抱えられるなり、格闘術のマスターとして一門を構えるなり、ともかくも立身出世することを目標としているのである。


「……お! 見えてきたぜ! あれが会場か。こりゃまたスゲエな……」


 そうして往来を行く二人の視界に、まだそこまでは距離があるが、遠くその巨体を威風堂々と聳え立たせる、イスカンドリーア名物〝円形闘技場コロッセオ〟が見え始める。


 古代イスカンドリア帝国時代に築かれた遺産であり、さすがに所々崩壊を起こしてはいるものの、その堅牢な石造りはいまだ健在で、充分、現役としても使われている代物だ。


「だな。大帝国一の強者を決める場所だけのことはある……さあ、盛り上がってきたぜ!」


 その、古代の闘士達も優劣を競ったであろう巨大な会場を望み、弟の言葉に答える兄カリストは、ますますその鼻息を荒くした──。

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