第17話 同士よ…!

「うまい!おっちゃんもう一杯!」

「まだスープに手をつけたばかりだろうが…」

「ハ、ハリナさんもう4軒目なのに少しも手が止まりません…」


 ずるずる!ハリナです!

 はい。ということでね。現在4軒目をハシゴ中だよ!今、私たちはカウンターしかない全体的にギトギトした食堂で王都グルメを堪能中!そのグルメとは…な、な、なんと!!濃厚オークラーメンニンニクマシマシ野菜モリモリ!

 くっせえドロドロ濃厚スープにデロンデロンの麺!どどんと乗っかった極厚の煮豚!天を突かんとばかりに主張する茹で野菜たち!仕上げは頭おかしいだろ(褒め言葉)ってほどのニンニクの山!

 くぅ〜!脳が多幸感で爆裂しそう!

 脳汁じゅわじゅわさせながらラーメンを啜る私を他所に、カタラナさんとカリオくんは私のラーメンの三分の一の大きさもないお子様ラーメンに箸をつけていた。

 やれやれ、2人とも少食だなぁ。うちのお父さんもお母さんもこれくらい普通に食べてたよ?いや〜、そんなことより!


「「なんて美味いラーメンなんだ!」「じゃ!」


「「んん?」」


 私と同じセリフを吐く声が隣から聞こえ、横を向く。すると、ふっさふさの白髭にたくさんの宝石を飾りつけた恰幅の良いお爺さんと目が合った。

 ジャラジャラと着けられたネックレスやほとんどの指に着けられた大粒の宝石が埋まった指輪、仕立ての良い上着。成金くさい見た目だなぁ…。

 そんな事を思っていると、「どうした?」とカタラナさんもこちらを向いた。そして、ギョッと目を剥き、椅子が倒れそうな勢いで立ちあがる。


「なっ…貴方は十二司、もごごっ!?」


 わわっ!突然声を上げ立ち上がったカタラナさんだったが口の中いっぱいに大きな煮豚を突っ込まれて、声を出せなくなった。わぁ、美味しそう…じゃなくて!何すんのさ!ウチのカタラナさんに!

 それをした張本人であるお爺さんを睨みつける。すると、彼は箸をカチカチ鳴らしながら笑いだした。


「ほーぅほぅほぅほぅ!この煮豚は美味いじゃろう!硬くて臭くて食えたもんじゃないと言われるあのオーク肉をな。半日の下拵えと丸一日かけて弱火で煮込み続ける。すると、これほど分厚かろうと蕩けるほどに柔らかく、美味くなる…!まさに価値の結晶じゃなぁ。……そう。価値とは永い時間をかけて磨かれねばならなぬもの…。金髪のお嬢ちゃん、君にはこの価値がわかるカネ?」


 そう言ってカタラナさんへ、真っ白な歯を見せるお爺さん。


「………っ!!」コクコク


 口をモゴモゴさせながら頭を大きく振りカタラナさんは頷いた。むむむ。少食なカタラナさんにはあのおっきな煮豚はキツイんじゃないかな?

 いくら美味しくても強要は駄目だよね!わたしは意を決して、講釈爺ちゃんに文句を言うことにした。


「ちょっと爺さん!うちのカタラナさんは少食なんだから無理に食べさせちゃ駄目だよ!」

「もごっ!…ばっ馬鹿!」

「ほーぅほうほうほう!うっかりうっかり!小さなお嬢ちゃんの言う通りカネ!1人で食べてるとどうにも美味さの共有がしたくてのぉ!」

「………わかる!」


 お爺さんを睨みつけていた私だが、その意見には賛成だ。

 いくら美味しくっても1人で食べてると味気ないんだよね。だから、ちょっぴりしか食べてないカタラナさんとカリオくんには申し訳ないけれど寂しさを感じてた。もしやこの人も私と同じグルメさん?いやぁ…でも、お爺さんだしなぁ…。


「……ドーナツバーガーは実に良い代物じゃった…。子供時代の好物を詰め込んだような…つい童心に帰ってしまう味の宝箱…」


 む?


「……ケンケン鳥の足の煮込みは、プルプルコリコリ。口の中で踊る楽しい食感は青年時代の火祭りを思い出す…。心弾ませながら、意中の子を踊りに誘ったあの頃を…」


 むむむ?


「……はちみつ溺れパン。子供心に一度は思った事がある…。たっぷりの蜂蜜を塗ってパンを食べたい…。そんな夢を夢以上に現実へ昇華したのがあのパンじゃ…。儂も深い深い夢の中へ共に溺れてしまいそうな…」


 むむむむむ!


 恍惚とした表情で長々と語り出したお爺さん。カタラナさんやカリオくん、店主のおじさんに他のお客さんはポカンとした表情でおじいさんを見つめている。だが、私だけは違った。

 パン!と箸を置き、お手拭きで手を清めるとバッ!と彼に向けて手を出す。


「同士よ…」

「フッ…」


 その手を見て静かに私の手をとるお爺さん。


「なにこれ」


 カタラナさんが呟く。黙らっしゃい。今、通じ合ってるんだから。


 *******************


「ほーぅほうほうほう!いやはや!実に楽しかったわい!またの!小さなお嬢ちゃん!」

「ばいびー!」


 そう言って背中越しに手を振り、店を出て行くお爺ちゃん。

 いやはや、あの後も長々とグルメ談義かましちゃったよ。しばらくお話しした後、彼は私たちのご飯代も出してくれた。いやぁ、実に気のいいお爺ちゃんだったなぁ。

 私が気分のせいか油のせいか顔をテカテカさせているとカタラナさんが、


「つ、疲れた…」


 とため息をついて項垂れていた。

 そんなに疲れる場面あったかな?なんだかあのお爺さんに声をかけられてから彼女はずっとタジタジだった気がする。気のせいかな?

 あれ?そう言えばカリオくんさっきからぜんぜん話さないな?


「うう…お、お腹いっぱいだよぉ…」


 涙目でスープを吸って膨らんだ麺に悪戦苦闘していた。可愛いやつめ。

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