第8話 いや、地味ん子って何?

 はい。そんなこんなで王都に着きました。今はちょうど門に入るところ。

 いやー。あれからほんとトラブルというトラブルはなかった。野営の際にタタラガがでけえバッタ食ってたくらいかな、衝撃だったのは。それ以来、私は奴を虫食いトカゲと密かに呼んでいる。カタラナさんも気に入っていた。

 私は窓からそろりと外を覗いてみる。そこにはズラーっとたくさんの人が門に並んでいる。うへぇ…これ並ぶのぉ?うんざりした顔で列を眺めていると、私たちの馬車はそんな列を無視して別の門へと進んで行ることに気がついた。


「あれ?ねえねえ、虫食いトカゲ。私たちは門に並ばなくてもいいの?」

「しばきまわすぞ地味ん子。…はあ、位の高い連中は並ばなくても良いんだよ。あと金のある奴もな。俺ら十二神教は王国の国教。特別扱いもまあ当然だわな」

「ああ、虫食いトカゲの言う通りだ。一般の信徒はともかく、私たち聖騎士に加え、教皇代理のライデス、それに聖女様がおられるからな」

「その通り…っててめえ、カタラナぁ!今何つったあ!」


 このどんちゃん騒ぎにも慣れたものだ。

 意外なんだけどタタラガはキレてもカタラナさんには手を出さない。壁ドンしながらメンチを切るだけだ。まあ、顔が怖いから十分効くんだけどね。私も何回かやられて何回かチビった。あと、地味ん子ってあだ名付けられた。解せぬ。

 カタラナさんは逆に結構手が出るタイプだ。タタラガがちょっかいかけたら、首を絞め上げられて、ガクンガクンされてたのを見た時は戦慄したね。私は彼女だけは怒らせないと心に誓った。

 一方でこの二日間、胡散くさ神父ことライデス神父だけは印象は変わらなかった。この人、いつもニコニコしてるんだよな。夜中、おしっこしたくて、ふと目が覚めたときにちらりと寝顔を覗いたら、その時も目を開けたままニコニコしてた。私は漏らした。

 そんなこんなで門番さんのとこに来たね。2人の門番さんが退屈そうにあくびをしている。そんな彼らに私は馬車から乗り出し、元気よく挨拶をする。


「こんちは!」

「はい、こんにちは。元気がいいな。品がないけど。地味なお嬢ちゃん、ここは一般用の入場口じゃないぞ?あっちに並ばないと。

 元気はいいことだが、ルールは守らないとな。品がないけど」

「そうだぞー。気をつけなよ地味なお嬢ちゃん」


 一言余計だなこのおじさんたち。というより、この馬車が見えぬのか!どうやら私の田舎娘パワーがキンキラ馬車を上回った様だ。私をじっとりとした目線で見てくる門番のおじさん。私は諦めて馬車に首を引っ込め、脱力する。


「負けたよ…真っ白だ…」

「げは!げはははは!ひー!すげえなガキンチョ!十二神教の高位馬車に乗ってて、一般人扱い受けるかフツー!げはははは、腹いてー!昨日のバッタ出そう!」


 大口を開けて爆笑するタタラガ。うるせえ、鱗剥ぐぞ。私はぶすくれてトカゲ頭を睨む。

 口の端からバッタの足はみ出てるぞ虫食いトカゲ。

 カタラナさん。私にはカタラナさんしかいないよ。カタラナさんなら慰めてくれるよね?ちらりと正面を見るとカタラナさんも顔を背けて震えていた。

 神は死んだか…。ニコニコ胡散くさ神父は変わらず微笑んでいるし。

 すると、やれやれ、とやれやれ神父が窓から身を乗り出し、雑談していた門番の男たちに話しかけた。


「失礼。門番の方々、こちらの馬車を何と心得ますか?」

「ああん?まだいたの….って…貴方はら、ライデス神父!そうすると…よ、よく見るとこの馬車は、十二神教の…!失礼いたしました!どうぞお通りください!」

「その前に、懺悔があるなら聞きましょう」

「はい?懺悔?」

「いや、特に罪は犯した覚えは…」

「ええ。あるでしょう?つい先程犯した罪が…」


 そう言って神父は門番のおじさんたちに私の姿が見える様、少しだけ位置をずれる。


「「あ、あー」」


 2人は数瞬の間、気まずそうに顔を合わせると、


「…見た目で判断して悪かったお嬢ちゃん」

「…申し訳なかった」


 門番さんたちは素直に私に頭を下げる。

 なんだ、案外いいとこあるなこの胡散くさ神父。私はほーんのすこしだけ彼の評価を上げた。

 感心した様子で彼を眺めていると、神父は額を押さえてやれやれ、と呆れたように頭を振った。


「聖女様がこんな戦闘力5の地味では困ります。もっと溢れんばかりのオーラを身につけて貰わねば」


 はい評価爆下がり!さあ、入国だー!

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