第43話 傭兵団VS『使役』④

(――な、体が動かない⁉)

(――まずい。これはミギー団長のスキル『リライフ』……体が思うように動かな……)


『リライフ』の力で、ガリアとリーフの体を操ると、ミギーはそのまま二人を特攻させる。


(――大丈夫。大丈夫だ。まだ、ライフは残っている。この二人は準到達者。ステータス値の乗った人間は体そのものが武器となる。ならば、体ごと特攻させるだけで十分……それに死んだ所ですぐ蘇る。まあ、死に過ぎると精神やられてボロボロになっちまうかも知れないけど……)


 体を操られ無策に突っ込んでくる二人を前にブルーノはため息を吐く。


「敵とはいえ、仲間を捨て石扱いするのは好かんのぅ……」


しかし、操られているとはいえ、向かってくるというのであれば話は別だ。


「――怨むなら、お主らを操るそこの人間を怨むがよい」


特攻してくる二人を前に、ブルーノは戦斧を水平に構える。

そんなブルーノを見て、リーフは顔を引き攣らせる。


(――無理だ、勝てない。無策で特攻した所で絶対に死ぬ)


 それでも、ミギーのスキルに縛られ、時間稼ぎのために特攻せざるを得ないリーフは心の中で絶叫を上げた。


(――いやだ。いやだっ! こんなのボクの戦い方じゃない。ただ、時間稼ぎをするためだけに殺され蘇生されるなんて、そんな……こんなのって……)


 ブルーノの間合いに入るや否や首を飛ばされるリーフ。

 ガリアは、頭部を失いバランスを崩したリーフの体を掴むと、それをブルーノに向かって投げ付ける。

 そして、それを隠れ蓑にリーフの体ごと剣を突き立てた。


(――すまない。リーフ。ダグラス団長が到着するまでの辛抱だ。それまで耐えてくれっ!)


 ダグラスが到着すれば戦況はきっと変わる。

 それを信じ、操られながらも戦うガリアの目に飛び込んできたのは、すべてを飲み込むほど巨大な爬虫類の顎。

 それを認識した瞬間、ガリアはリーフの体ごと嚙み砕かれる。


「――ふぅむ。お終いかのぅ?」


 ガリガリと音を立てて嚙み砕かれるガリアとリーフを見て、ブルーノは呟くように言う。


「……おいおい、そりゃあ反則だろう」

「――反則? おかしなことを言うのぅ。反則もなにも元からそこにいただろうに……」


 つい先日、ダグラスが作った大地の裂け目。

 それを埋めるため召喚した大蛇ヨルムンガンド

 ブルーノは大蛇ヨルムンガンドの口先を撫でるように触る。


大蛇ヨルムンガンドの消化液は強力。いくらライフを与えても、もう無駄じゃ……大蛇の腹の中で消化と再生を繰り返すことになるだろう。糞になって排出されない限りはのぅ」


(――おいおいおいおい。聞いてない。聞いてないぞ……)


 突如として現れた大蛇ヨルムンガンドの存在にミギーは大きく動揺する。


(――こんな山よりデカいモンスターをどうやって倒せばいいんだ……ライフを与えて操るにも、流石にこれは……モンスターなんて操れるはずがない)


 ミギーが操れるのは、その構造を熟知しているモノに限られる。

 人間と大蛇では体の動かし方が違うので操ることができないのも当然だ。


「――へ、へへへっ……ま、まあ待てよ。話し合いをしよう。さっき、言ってたことを覚えているかい?」


 ミギーは冷や汗を流しながら両手を上げる。


「言っていたこと?」

「あ、ああ、そうさ。あんたがさっき言っていた尻尾巻いて逃げて見るっていうのは、今も有効かい?」

「ふむ……」


 そう呟くと、ブルーノは戦斧を持ちながら、ミギーの近くまで寄る。

 そして、戦斧の刀身をミギーの首筋に添えると冷たい目を浮かべ呟いた。


「――まさか、一人で逃げる気か?」


 回答を間違えば一瞬で首が飛ぶ。

 もう形振りは構っていられない。


「――そ、そうそう。まさか、ここまで強いとは思わなかったんだよ。許してくれ。この通りだ。ほら、別にいいだろ? こっちの被害は甚大だ。それに対して、そっちの被害は殆んどない。手打ちといこう。もうあんた等に係らない。約束する。もしそれでも、収まらないならダグラスの奴を好きにしてくれていい。言い出しっぺはあいつなんだ。まったく騙されたぜ。なんなら、奴の情報を渡しても――ごほっ⁉」


 命乞いの最中、ミギーの腹から刀身が生える。

 奇しくもその刀身は、近くまで寄ってきたブルーノの腹に深々と突き刺さっていた。


「ぐ、ぐうっ――」


 思いがけない攻撃を受けたブルーノは、その場から飛び退くと冷や汗を流ししゃがみ込む。

 突如として刺されたミギーが後ろを振り向くと、そこにはダグラス傭兵団の団長であるダグラスの姿があった。


「お、お前は、ダグラスッ⁉ な、なんで……!」


 ダグラスの装備は赤く染まり、手に握る剣は元から刀身が赤かったのではないかと思うほど、血に塗れていた。


「――なんで? 『使役』に一撃を加える手伝いをしてやったんだ。本望だろう?」

「……ほ、本望もなにも俺は――」


 その瞬間、ミギーの首が飛ぶ。

 ミギーの頭が放物線を描き大蛇の前に落ちると、大蛇は舌で頭を絡めとりそれを飲み込んだ。


「穢れ……いや違うのぅ。これは呪か……(――『同族殺し』……このスキルを発現する者がいたとは……)」


 ◆――――――――――――――――――◆

【名 前】ダグラス・ムーブ

【年 齢】36    【レベル】‌218

【スキル】回復   【ジョブ】殺人鬼

     指揮

【特 殊】共有 同族殺し(呪)

     リライフ 索敵 転移 他

【STR】体力:210(MAX) 魔力:236(MAX)

     攻撃:186(MAX) 防御:212(MAX)

     知力:201(MAX) 運命:100(MAX)

 ◆――――――――――――――――――◆


(――出鱈目なステータスにスキル数……人間としての限界を優に超えておる。これは、拙いかもしれんのぅ……)


 体中を血の色に染め立つダグラスを前に、ブルーノは頬に一筋の汗を流した。

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