痴漢から助けたからかい上手の彼女が僕の女友達にNTRれるまで~純愛甘々からのNTRからの…?~

下蒼銀杏

第1話 いつか来る日

 もちろん愛が性欲をかきたてることもある。ただし、その場合の肉体関係には、貪欲さも征服したいという願望も征服されたいという願望も欠けており、その代わりに優しさがある。――エーリッヒ・フロム『愛するということ』




 潮田晴樹しおたはるきは彼女――佐倉茉莉さくらまつりの首筋に舌を這わせている時に、なぜか友人から聞いた偉人の名言を思い出した。


 性欲をむき出しにしたぐらいでお前の価値は下がらねえよ、難しく考えすぎるな、という友人の言葉も脳裏に響く。


 晴樹は陶器のように白くて華奢な茉莉の身体を慎重にベッドに押し倒した。


 首筋から鎖骨、その下へと順に口を動かしていった。


 んっ、と何かを我慢するような苦悶の声を茉莉が上げた。


 晴樹はそれを聞いて、もっと色んな反応が見たいと思ったし、実際に色んな反応を楽しんだ。


 何もかもが初めてで、よくわかっていないのに、いいだろうと思った。


 が、茉莉の身体はまだその準備ができていなかったのか、なかなか上手くいかなかった。


 何度か挑戦するが、茉莉の痛がる姿を見ると申し訳なくなり、「今日はやめとこうか」と晴樹は言った。


 すると、茉莉は「晴樹さんのをしたい」と言って、仰向けになった晴樹の脚の間に匍匐ほふくした。


 股の間から見上げてくる茉莉はどうしようもなく蠱惑的だった。


 ことが終わってからは、身体を寄せ合って眠りにつこうとした。


 横で眠る茉莉の滑らかな黒髪を撫でると、気持ちよさそうな表情を浮かべたように見えた。


 大切にすると誓うかのような心持ちで、撫でることに腐心していると、徐々に不安になってきた。


 それは初めてが上手くいなかったとか、そういう次元の話ではなくて、晴樹の認識の域を超えた何かが刃物を持って差し迫ってくるかのような、そんな圧倒的な不安だった。


 そしてその予感は見事に的中しているのだが、この時の晴樹はまだ知らない――




 ――この一か月後、茉莉が夏希という女の子とセックスをするということを。




 どこの馬の骨かわからないような男に寝取られた方がマシとも捉えられるし、相手がそんな男ではなくて夏希で良かったと捉えられることも人によってはできるだろう。


 ともかく、何本もの糸が複雑に絡み合っているだけでなく、それらが得体の知れない粘っこさを纏っているかのような関係で、簡単に語り尽くすことはできない。


 性欲と愛の関係なんて今の晴樹にわかるわけはないし、そもそも考える必要もないので、彼は睡魔に身を任せると、振り返るかのように茉莉との出会いが夢に出てきた。


 初めて見せてくれた茉莉の表情は泣き顔だった。


 眠りに落ちる直前、晴樹の部屋の机に置いてある、十円玉が少しと百円玉がぎっしり詰まったジャムの瓶が見えた気がしたが、ベッドからの角度的にそれが見えるのはありえないので、やっぱり気のせいだと思うことにした。





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