第13話 春季キャンプで調整

 2月になって、春季キャンプが始まった。


 ポーランドで開催されるゲーム大会やチームの練習が気になるけれど、こっちにも集中しなければならない。これまでに出来る限りのサポートはした。ここから先は、彼らを信じるだけ。今は、自分のことに意識を集中させる。


 今季で引退することについては既に、監督やオーナーなどフロントとの話し合いは終わっていた。シーズン終盤の9月頃に引退試合が行われる予定になっている。それまでは、プロ野球選手の上瀬裕一として一生懸命に取り組む。




 引き際をきれいに飾るために、試合で活躍できるようにしっかりと調整を済ませておく。無様な姿は見せたくない。体も十分に動くので大丈夫なはず。まだまだ試合で戦えるだろう。


 コーチから指示された練習メニューを消化して、自主的なトレーニングも行った。走り込みで体力を鍛え直して、ウエイトトレーニングで全身の筋肉に刺激を与える。


 サードでノックを受けて、体を動かしながら捕球や送球に問題が無いか確認する。ちゃんと体は動く。例年に比べても十分に動けて、良い感じだ。打球反応にも問題は無い。軽快なフットワークで、飛んでくるボールを素早く捌く。


 守備の動作は、思い通りの動きが出来ていた。これも問題なさそうだ。


 バッティングのフォームも確認する。腕が下がっていないか、肩が下がっていないかどうか。バットのヘッドが必要以上に寝ていないか。各箇所をチェックしながら、細かく修正していく。気持ちよくバットをスイングできるように。力を分散せさずに振り抜けるように。




 守備も打撃も問題ないようだ。後は、実際に試合で動けるかどうか。


 春季キャンプも半分ぐらいが過ぎたあたりで、他球団との練習試合が行われた。俺はサードを守り、6番バッターとして出場する。


 クリーンナップの後の打順という事で、チャンスの場面で多く打席が回ってきた。まだキャンプで仕上げている途中らしいピッチャーの甘いボールをしっかりと仕留めて、点を稼ぐ。


 結果的に、3打数2安打2得点という成績。すごくいい状態で試合に臨めた。その後の練習試合でも、結果を残すことが出来た。レギュラー入りの可能性は十分。


 だけど、油断しないように。ペナントレースに向けて、各球団ピッチャーの研究は必須だと感じていた。それを忘れないようにしないと。




 チーム全体の連携や雰囲気も良いので、今年こそ優勝を狙えそうな予感があった。去年は逃してしまったリーグ優勝と日本一を目指す。




「裕一、終わった後、暇か? 一緒に飯を食いに行こうや」

「あ、はい。大丈夫です。行きましょう。焼肉ですか?」

「おう! ガッツリ、肉を食おうか」

「いいですね」


 その日の練習が終わろうとしていた時間に話しかけてきたのは、キャプテンの野々瀬和之ののせかずゆきさん。俺よりも5歳年上の先輩である。その先輩に食事を誘われた。


 特に用事も無かったので、野々瀬さんの誘いを受ける。その日の夜は一緒に食事をすることになった。

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