第3章
第33話 勇者の事情
「さて、こっちのネタばらしはすんだところでそろそろそっちの話を聞かせくれるかな。どうして勇者レイナはこんな外れの村のクエストなんて受けてるんだい?勇者は療養中だったはずだよ?」
夕食後、落ち着いたタイミングで聞くことにする。
「療養中って話をしたのはニーナさんね。王国でそう発表されてるのは間違いないわ。でも、事実は違う。」
レイナの話によれば勇者として召喚されたレイナは王国が窮地に陥ってるので助けて欲しい。魔王を討伐してくれたら元の世界に帰すと約束したらしい。とはいえ、勇者一人で魔王を倒すのは難しいので王国の精鋭を何人かサポートにつけてくれたらしい。国王は魔王が大司教であることはわかっていて、レイナが成長するのを待ってから魔王の討伐を命じたらしい。そして、魔王との死闘の末、なんとか勝利したとき事件は起きたらしい。
「仲間だと思ってた騎士がわたしに襲いかかってきて、魔術師はわたしを殺すつもりで魔法を放ってくるしでわけがわからなくて逃げ出してきたのよ。」
王国に裏切られたわけだ。
「王国に追われてるから王都からは出ないといけない。でも、お金も稼がないといけないから魔王討伐前からコツコツと経験値を稼ぐために偽名で登録してた冒険者の身分で地方を転々としてたのよ。そのときにちょうど受けたクエストがあれだったわけ。」
人目につきづらい遠征のクエストを探してたってわけか。ちなみに冒険者登録を偽名でしてたのは勇者としての名前が広まったら冒険者をやりづらくなると思ったからだそうだ。
「そしたら知り合いがダンジョンで魔物と暮らしてるって言うじゃない。しかも、そこに一番近い村は魔物が強すぎて撤退するって言っててラッキーと思ってこっちに来たのよ。」
どうやら、こいつ王国から追われてる身らしい。
「それ、この森にいるのバレたらここに王国から森の魔物掃討作戦って言う名目で王国が攻めてくる。」
メイが面倒くさそうに指摘する。
「あの冒険者パーティ、おまえの話を街中でしそうだよな。」
姿を隠すためにローブを羽織ってたらしいが街から出たのもあって油断したらしい。噂が飛び交えば捜索隊の耳に入るのも時間の問題だ。
「もしかして、わたしやらかした?」
レイナの質問に他の全員が頷いた。
翌日、俺のために盾になろうとしてくれたりしたニーナに昨日のお礼が何かしたいと言ったらこのダンジョンにもっと貢献したいと言ってくれたので念話の魔導書を使い、彼女にオペレーターの役割を任せることにした。これで俺が連絡役をやる必要もなくなり、自由な時間ができるし、魔力も他のことに回せるようになる。
手が空いた俺はこれからのことを考える。レイナがゴーレムたちを全滅させたのでその分の戦力の補填もしないといけないし王国に対する対策もしないといけなくなった。森でこれ以上異常事態が続くようなら封印の館に眠るヴァンパイアを呼び出して倒して呪いを解除しないといけない。起こりうるリスクに対処するためには問題は山積みだ。考えているとコンコンと扉をノックする音がした。
「上宮、ちょっといい?」
レイナが部屋に入ってきた。
「どうした?」
レイナは俺があぐらをかいているベッドの横にちょこんと腰掛ける。
「ねえ、わたしはどうして裏切られたの?何も悪いことしてないのに。」
どうやら、裏切られたことはレイナにとってだいぶショックな出来事だったらしい。
「ジェームズもラッセルも魔王を倒すまではすごい良くしてくれたの。それなのに魔王を倒した瞬間襲いかかってきて。わたしなんかしたのかなって。」
今までそうとう張り詰めていたのだろう。元の世界にいたときからこいつはいきなり俺の部屋に来て、いろいろ愚痴って帰ることがあった。うちの親もレイナには甘く俺の許可無しに部屋に通してしまっていた。
「なあ、1つ聞いていいか。国王に元の世界に戻してもらう約束をしたときなんて言われた。元の世界に戻すって言われたか?」
俺は少し疑問に思ったことをぶつける。
「えーと。」
内容を具体的には覚えてないようだ。
「そうだな。例えば、君の家族の元に返してやる。とか言われなかったか?」
「そう、それよ。確かにそう言われた。家族にもう一度会わせてやるって。」
どうやら思い出したように。
「すごい、どうしてわかったの?」
「相手を生きて帰す気が無いときに言う常套句だよ。」
レイナはきょとんとする。状況が飲み込めてないらしい。
「なあレイナ。家族に会わせやるの家族って誰だと思う?」
「そりゃ、お父さんとかお母さんとか。」
まあ、普通家族って言って思い浮かべるのはその辺だ。レイナは本とか読むタイプじゃないし知らなくても無理はない。
「ひいおじいちゃんとかもっとその上の遠い先祖も家族って言えば家族なんだよ。だから、こういう時の返す場所ってのはあの世のことなんだよ。あの世に行けばもう一度会えるってな。」
俺の言葉を聞いてレイナは悲しい顔をする。
「最初から帰す気なんて無かったんだ。じゃあ、王国のいろいろサポートしてくれた人たちもみんなグルか。わたしバカだよね、みんな魔王を倒してもらう演技だったのにコロッとだまされて。」
「全員ではないと思うぞ。計画に荷担する人数が増えれば増えるほど情報が周りに漏れるリスクが上がって失敗しやすくなる。だから、計画を知っていたのは国王が信頼をおけて暗殺に関与できる立場の数人。あとは本気でレイナが魔王を倒してくれればいいと思って応援してくれてたと思う。」
レイナは俺の肩に体重を預けてくる。
「ありがとう。あんたがこっちにいてくれて助かったわ。」
「ああ。」
しばらくレイナはその状態のままでいた。
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