第28話 消えた少女
翌日、テンカは妖狐らしく白と赤の和服で出てきた。一晩メイと相談してこれに落ち着いたらしい。
「テンカの装備どうする?」
メイが聞く。
「ちょっと、考えないとな。あの和服、メイが作ったのか?」
答えを保留して気になったことを聞く。
「ソータの漫画を参考にして作ってみた。」
俺が暇つぶしのために模倣で作った漫画をたまにメイも読んでいたためそれを参考にしてテンカの衣装ができたらしい。細かいところまではわからなかったため正確には和服ではなく和服風の衣装らしいが。
それからテンカにも銃を持たせるかの議論をメイとしていたがテンカに試し打ちをさせたところ銃の腕は絶望的なことがわかったので至近距離でなら正確に狙いをつけなくてもいいショットガンを非常時のために持たせることにした。ちなみに味方を巻き込むことが怖いので近くに味方がいたら絶対に使うなと念を押しておいた。
朝食後、テンカたちはここ数日の日課になったダンジョン周りのイノシシ狩りに向かった。会議室では俺がドローンから念話でテンカたちに指示を出し、ニーナにはドローンで村の様子を見に行ってもらった(村の周辺で見つかっても面倒なので暗くなる前に回収しておいた)。途中で、魔物たちの情報を集めながら向かってもらったので村に着いたのはお昼前になってしまった。
「キャラバンが迎えに来たようですね。」
街の遠くからいくつもの馬車が来たのを確認してニーナが報告してくる。
「大量の援軍か?」
冒険者を集めて周辺のイノシシたちを一掃するのかと思ったがニーナが首を横に振った。
「たぶんこれは撤退用のキャラバンですね。ここで戦闘をするつもりなら物資が少なすぎます。」
確かに見る限り物資を積んでそうな馬車はほとんどない。
「じゃあ、この村は捨てて近くの村に避難するってことか?」
「はい。1つの村ではキャパオーバーになるのでいくつかの村に分かれて避難することになるでしょう。わたしのいた村にも前にそのような人が来た記憶があるのでそれなりの頻度では起こっているみたいですね。」
村を追われる人が出ることは魔物が生息するこの世界ではわりとよくある話なのかもしれない。
「住民はこれで全部みたいですね。」
村を引き続き監視していたニーナが伝える。しばらく荷物の積み込みなどをしていたようだがそれも終わったようだ。冒険者パーティの姿も見える。
「あの少女の姿が見えませんね。」
すでに先頭の馬車は動き出している。
「馬車が移動を開始しているってことはこれで連れて行く人間は全てってことだと思うのであの少女は村のどこかにいるか別行動で先に村から出たかですが。」
馬車が全て村から出て行ったのを見計らい、ニーナは村の家を一軒一軒ドローンで窓から人がいないか確認する。
「いません。」
全ての家を確認したニーナが報告する。
「さすがにこっちには来てないよな?途中で魔物たちが不自然に倒された痕もなかったし。」
「不自然な死体はありませんでしたね。」
森に入って戦闘しないってことはないだろうとニーナと確認する。
「どうしたの?」
俺とニーナが顔を見合わせてるとメイが工房から出てきた。
「冒険者の少女がどこかに消えた。」
メイに経緯を話す。
「転移の魔法でどこかに飛んだのかもしれないけどもうちょっと探してみた方がいい。万が一がある。」
見落としがあったら大変だからとメイにも言われ再びドローンで森を捜索する。
「ニーナ、ここに近づける?」
メイが指示したのはニーナたちがゴブリンに襲われた場所。肉は魔物たちに食い荒らされたが骨と防具は残ったままになっている。
「ここ拡大して。」
メイの指示に従って拡大すると冒険者たちの骨のあるところにそれぞれ花が置いてあった。誰かがお供えしたに違いないがここにたどり着けるものは限られる。そして、昨日にはこんなものなかったはずなので、これが供えられたのは今日ということになる。
「間違いない。あの少女はこの森のどこかにいる。」
メイが断言する。これを見つけた以上、それは間違いないだろう。
イノシシ狩りをしていた遠征組を呼び出して強制撤収させた。それでも、ギガントイノシシ11体にジャイアントイノシシ1体と短時間でとんでもない数を倒してきている。
「冒険者の少女が一人で森にとどまった、ですか。何が目的でしょうか。」
報告を受けたエルフが首をかしげる。
「きっと武者修行コン。」
テンカが脳天気に言うが
「それじゃ、戦闘の痕跡がないのがおかしい。」
メイに速攻で否定される。
「そこなんですよね。戦闘の痕跡がないってことが一番不自然なんですよね。まるで意図的に隠してるような。」
ニーナが最大の疑問を口にする。
「監視に気がついてた?あり得ない。あの少女が上を見てる様子はなかったし気づかれることだってしてないはず。」
メイがいつどうやったら気がつくのかわからないと主張する。他のみんなも昨日の戦闘は見ているので気付かれた様子はなかったはずだと同意する。ただ一人を除いては。
「1つだけ心あたりがあるな。」
ここで俺もようやく議論に参加する。
「ジャイアントギガントが出てきて冒険者パーティが撤退したとき、俺は村まで画面に納めようとドローンを急上昇させた。たぶんあのときだ。」
俺のミスだとみんなに謝る。
「それで気がつかれるなんておかしい。距離は離れていたはず。不自然に空に浮かんでも見る暇はないはず。」
他の人たちも姪の意見に頷く。
「いや、音だ。ドローンは急上昇しようとすると大きなモーター音がなる。その音でバレたんだ。」
俺の説明でみんな納得したようだ。
「だとしたらまずい。わたしたちがイノシシたちをけしかけた黒幕だと思われる。」
今ある情報から推測すると少女がそう考えるのが自然だろう。
「ドローンを回収するとことか見られてたらだいたいの方角も特定されてるかもしれませんね。」
ニーナの推測も否定できない。そもそもニーナの話では封印の館の話はおとぎ話だと思われており、その位置を知ってる人間はもう残ってないだろう。となるとこのダンジョンがその住処だと錯覚してもおかしくない状態にはあるわけだ。
「どっちにしてもやるしかないコン。」
テンカの言うとおり攻めてきたらやるしかない。
「いました。冒険者の少女見つけました。」
ニーナがドローンを操作しながら叫ぶ。
「場所はここから1キロほどの位置です。」
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