両親達

 さて、翌日のデートについてはあえて伏せさせてもらう事にする。

 莉子りこに甘やかされ過ぎて恥ずかしいから。


 昨日の今日で莉子りこの両親とも改めて話をしておこうと考えたから、今日も僕の家には両家の親が集まる事になっている。

 昨晩のうちに莉子りこの両親には僕がテンパってプロポーズした事も伝えられていて正直、恥ずかしかった。


 僕達は予定を済ませて少しだけデートをして夕方には家に帰って来た。

「ただいま」

「お邪魔します」

「は〜い、お帰り」

 僕達を出迎えた母さんは少し頬が紅潮していてアルコールの匂いがする。

 リビングからも談笑と食べ物の匂いがしてくる。

 この人達は昼間っから飲んでたのかな?


「ちゃんとした格好すればマシになるものね」

 それが息子に対する言葉かこの母親は。

 良く言えば放任主義の両親は僕が自分で責任を取れる範囲であれば何も口を出してこなかった。これは優璃ゆりに対しても同じだった。他人に迷惑をかけるような事をすれば容赦無く怒るからそういう事はしない様にしてきた。

 母親から口を酸っぱくして言われてきた言葉は『自分がやられて嫌な事は他人にするな』というもの。

 普通、もっと他のことを言われるんじゃないかと小さい頃は思っていた。大きくなった今ならその言葉の意味が少しだけわかる。

 でも、それを踏まえた上であえて言わせてもらう。

「その言い分は無いんじゃない。もう少し褒めるとかないの?」

莉子りこちゃんのセンスがいいのは良くわかった。ただねえ」

「あっ、もういい、それ以上言わなくていいから!」

「素材がパッとしない。もっとシャンとしなさい」


 ニマニマとした表情の母親はこれでも僕を激励しているんだと思う。

 昨日の今日では内面まで変わる事はできないのだろう。

 それでも莉子りこの手によって外見は整えられた。後は内面を磨けとそう言っているのだろう。そうだと信じたい。この酔っぱらい達を見るまではそう思っていた。


「おう、お帰り、二人とも」

「随分、スッキリしたわねえ」

莉子りこちゃんの手にかかると柳一郎りゅういちろうも見違えたなあ」

 三人からの評価はおいといて。


「随分飲んでるね、お父さん、お母さん」

「ん?莉子りこも飲む?」

「私は未成年!まだ飲めないの!」

「そんな事言って、小さい時にお爺さんのところで飲んだだろう?」

「あれは、間違えて飲んだだけで飲もうとして飲んだんじゃないからね」

 法事やなんかで親戚が集まった時に良くある事だよね。僕にも覚えがある。

 ビールを炭酸飲料と間違えて飲んだ事を思い出す。なんとも言えないあの苦さを思い出すと両親達が美味しそうに目の前でビールを飲む姿にこれも大人になるという事かと考えてしまった。


「お帰りなさい柳一郎りゅういちろうさん、きちんとしていた方がカッコいいですよ」

 キッチンでお酒のお供を料理していた優璃ゆりが僕に声をかけてきた。

「そ、そうか?でも、髪型を整えるのも慣れてないから僕にちゃんとできるかなあ?」

「そのくらいでしたら、手伝いますよ」

「そう、じゃあ、慣れるまでお願いしてもいいか?」

「はい、その代わり莉子りこ姉さんにも言っておいてくださいね」

「ん?わかった、言っておく」

 どういう事か分からないけど、優璃ゆりがそう言うんならそうしておいた方がいいんだろうな。僕がその理由を知るのはもう少し後の事だった。


 夕飯の席で僕は改めて莉子りこと交際する事を向こうの両親に伝えた。二日連続の公開告白は恥ずかしい気持ちはあるけど、これも必要な事と腹を括っての行動。


柳一郎りゅういちろう君、莉子りこの事を幸せにしてくれよ。泣かせたら許さないよ」

「はい、それはもう肝に銘じておきます」

「あらあら、お父さん。随分あっさりと許すんですね」

「そりゃあなあ、小さい頃から柳一郎りゅういちろう君の嫁になるって言われてたからとっくに覚悟ができてるよ。まさか本当になるとは思ってなかったがな」

「ちょっと、お父さんそれは言わないで!」


 聞いちゃったよ。拙かった?

 びっくりした僕と顔を真っ赤に紅潮させた莉子りこが顔を見合わせる。

「なんにせよ、二人が幸せになってくれるのが一番だけどね」

「ありがとう、父さん」

柳一郎りゅういちろうは進学するんだよな」

「うん、莉子りこの通ってる大学を受けようと思ってる」

「えっ、受かるの?」

 母親!もう少しオブラートに包んで!

「受験までには受かるように努力するよ」

莉子りこあなた、勉強を見てあげたら?」

「バイトが無いときなら見れるけど」

「あら、いいの?」

「あ、大丈夫です」

柳一郎りゅういちろうくんと二人っきりだからって暴走したらダメよ。きちんと避妊しなさいね」

「そうね、学生で妊娠はダメよ。柳一郎りゅういちろう、これを持っておきなさい。必要な時にないと困るから」


 母さんは財布の中から四角い小さなパッケージを取り出して僕の掌に置いた。

 僕も実物を手にするのは初めて。

 クラスの女子が持ってるのを見た事はある。案外男子は見えるところに置かないんじゃないかな。


 父さん達が遠い目をしている。

 僕も同じ気持ちだよ。

 どうしてこう言う話になると女の人ははっきりと言うんだろうか?


 ジト目で優璃ゆりが僕を見てるけど僕は悪くない。母さん達が悪いんだ。

「僕達はまだ手も繋いで無いのに……」

 言い訳の様に僕は呟いた。

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