第16話 【ブローカー】のお仕事2―前編―

「兄様。魅せプというやつをするのはいいですが、そろそろ私飽きてきました。早く仕事していただけませんか?」


 カミラさん用に魅せプをしていたら後ろからついてきていたCに怒られた。


「……そうだな。一応仕事だもんな。じゃ、さっさと終わらせてくるよ。」



―――ドンッッ



 銃弾を全て避けながら、床を全力で踏み抜いて前進する。『反射』の力を利用することで、床への衝撃から生じた俺への反発力を反射し、前進させる推進力へと変える。その速さは本来人間では出せないようなスピードを生み出し、20mあった距離を1秒ほどで詰める。


 鎧を着た男たちの表情は見えないが、体が硬直しているところを見ると驚愕の表情を浮かべていることだろう。これを初見で対応できる人間はほとんどいないから仕方のないことだろう。


 俺は走りながら抜いていた二振りの細い短剣を、それぞれの鎧のつなぎ目である首元に差し込み、反射による推進力で無理やり二人の男の首を貫く。


「C、次行くぞ。」


「はい。」


 鎧の男たちはまだぴくぴく動いているが、頸動脈を切りつけたのだからいずれ大量出血で死ぬだろうから放っておく。


 俺は新たに短剣を腰の右側から二振り抜いて両手に装備する。ちなみに、俺は戦闘をする際は常に腰に短剣を4本装備している。この短剣はパリ―イング・ダガーと呼ばれる種類のものだ。その他にも腹回りや足元に苦無を仕込んでいたり、伸縮自在の毒矢入り吹き矢なんかも持っていたりする。


「ばれて集まってる。突撃する。」


「了解。御武運を。」


 今の発砲音で俺たち場所はばれているだろう。それゆえ部屋の前に人が集まっている可能性がある。俺が一人で突撃して制圧するからそこで見ておけ。理解したか?といった情報を素早く交換する。


 普段ならこんなこと言わずとも目線だけで伝わるのだが、クロエが見ている前ではある程度の演出が必要だろうと考えてやってみた。……ダサかっただろうか。


 そんなことを考えながら家の角を曲がり、目的の部屋の近くまで行く。そこには武装した人間が10人ほど集まっており、周囲を警戒していた。


 俺は彼らが気付く前に技能を使用して瞬時に距離を詰め、一人の首元を切り裂く。それと同時にもう片方の手でも別の人の首を切り裂く。

 俺の力では通常人の首を切断するまではいかないのだが、『反射』の技能を併用することで手に伝わる反動すらも反射し、綺麗に一刀両断する。


 あと8人。


「なっ!」


 彼らは一瞬の間に仲間が二人攻撃されているところを見て、驚きのあまり体が硬直してしまっている。その隙を見逃さず一人の男に接近し、防御する間も与えずに手首を大きく切り裂く。

 ……忘れているかもしれないが、俺の身長は小さい。そのため少しジャンプしないと首を切り裂くことができないのだ。隙が少ない今の段階では大きめにリストカットするのが限界だった。


「ああああああああああ!」


 だが痛みに慣れていなかったのだろうか。彼はそれだけで両手から武器を落としてしまい、大きな隙を晒すことになってしまう。が、こいつは放置である。これ以上相手にしていては周囲の人間にやられる可能性が出る。


 こうして3人を傷つけた俺は囲まれる前にその場を離脱する。その際に攻撃に当たらないようできるだけ姿勢をかがめて、彼らの足の健を切り裂きながら脱出する。これで満足に動ける人間は残り5人。時間にして3秒ほどのことであったことを考えても、上々すぎる成果だといえるだろう。


「てめぇ!!」


 短槍を持った青年が俺を突いてくる。しかし俺にとってはあまりにも遅すぎる。俺は普段から常に格上の人間たちと戦闘訓練を行っているのだ。槍の挙動を見て避けることくらいわけはない。


 俺は槍の先端に横から短剣で力を加えて紙一重で避け、隙だらけの青年に一歩で短剣の間合いまで近づき、右手の短剣で首を思いっきり切り裂く。


「ガハッ!」


 俺の仮面をつけた顔に血が飛び散るが、そんなことは気にしない。短槍持ちの彼を盾にしながら、もう一人の方へ突進しつつ彼を押し投げる。


「なっ!」


 残り4人のうちの1人が、ぶつかって来た彼を受け止めきれず姿勢を崩す。俺は短槍持ちによって死角となっている場所を利用してそいつに近づき、大きく彼の頭を飛び越えるようにジャンプする。そしてそのジャンプ中に短剣を首元に突き刺し、そこを支点にして体をひねり床に綺麗に着地する。……これ以外に使う機会多いから結構練習したんだよな。


 最後に短剣がなくなった片方の手を服の内側に突っ込み、伸縮自在の吹き矢を取り出す。倒れこむ彼らの背に隠れてその準備をし、距離を空けるために後退しつつ残り3人のうちの一人に向かって吹き矢を放つ。


「いたっ」


 吹き矢が突き刺さった彼は、いたっと言ったものの特に痛みを気にした様子もなく、矢の代わりをしていた針を引き抜く。そしてそれと同時に、彼の体は痙攣し始め床にうずくまってしまう。

 この針には象をも殺す強力な毒が塗られており、普通の人間なら数秒で死に至る。それゆえ、刺さった瞬間から体は麻痺し始め、立つことすらできなくなるのである。



 で、なぜ俺がこれで最後と言ったか。あと二人残っているにも関わらずこれで最後と言ったのには理由がある。俺は戦闘の最後という意味で言ったのではなく、瞬殺できる最後の人間という意味で最後と言ったのである。


 そもそも彼らは全員精霊を現界させていた。そんな彼らはたとえ本人にそこまで実力がなかったとしても脅威なのだ。彼らの技能については一切把握していないし、彼らが一斉に技能を使えば俺の反射では対応できないからである。それにもしかしたら相性が致命的に悪い技能に当たるかもしれない。だから俺は彼らを瞬殺する必要があった。その最後という意味である。



 ということで残りは二人。赤い精霊持ちと黄色い精霊持ちの二人に対してどう対処していけばいいのか。ここからは完全にアドリブである。短剣1本、苦無数本で2mの(俺にとっては)大男と対峙しなければならないのだ。……やっぱり変わらず速攻かな。技能が厄介だったら危険だし。


「お前一体なにし……」


 男の一人が何か叫んでいたが、目くらましのために苦無を彼らに向かって1本ずつ投げる。苦無が彼らの目に当たった瞬間には俺が自分の間合いに入り込み、一人の男の首元を短剣で深く傷つける。即死はしていないだろうが、しばらくしたら出血死するほどの大量の血が流れ出ている。


 これで後一人。



―――ビリビリビリッ



 俺の胸元を電撃が貫く。大したダメージはないが体が数秒の間麻痺して動かなくなってしまう。


「死ねっ!!」


 2.5mほどはあるであろう巨体から生み出される物凄いパワーの蹴りを腹に入れられ……そうになるが直前で技能を使用して彼の勢いをそのまま彼に向けて反射する。


「うがああああああっ!」


 俺が彼の蹴りの威力を『反射』させたため、自分の蹴りの威力のおよそ2倍の威力が彼の足に付きささる。


 彼はどうやら俺を蹴った右足の骨を折ったらしく、床にしりもちをついた状態で叫んでいる。傍から見たらただの滑稽な奴だが、俺は笑うことはできない。明日は我が身だからだ。技能の把握を怠ったり、技能の優劣によっては俺もああなってしまうのである。気を付けないとな。


 ぎゃあぎゃあ暴れているのを気にすることなく、俺は最後の短剣を首に差し込む。彼の身体は一瞬ビクンと跳ねたが、俺が短剣を抜くと糸がぷつんと切れたかのように体が一切動かなくなる。引き抜く際にまた仮面に血が飛び散ってしまう。


 後は後処理だけである。武器を持てない人間や辛うじて生きている人間を急所狙いで一突きして絶命させていく。その際にもまた血が飛び散り、俺に降りかかる。


 最後に男に刺さっていた短剣を引き抜いて、血振りをした後軽く服で拭った後納刀する。その際にも服や体は血まみれになってしまう。


 こうして頭からつま先まで全身が真っ赤に染まった状態で、俺は誰に向けるでもなく小さくつぶやく。


「さて、ラスボスに挑むとしますか。」





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