THE NICEST PEOPLE OF THE DEAD!!!!

秋梨夜風

第一話 不良少女メアリー

「お前の名前はマリア様から頂いてるんだよ」

「知らないよ!誰だよそいつ」

「他人に優しく、善いと思われる人になりなさいね」

「嫌だね!騙されて、"都合のイイ"人になるのがオチじゃん」




――あたしの両親は、世界的に蔓延っているとある厄介な宗教の熱心な信者だった。あたしは生まれて直ぐに洗礼を受けさせられて、幼稚園児の頃は分からないままミサにも参加してた。

 けれど今では自分のメアリーって名前すら、由来が由来だから嫌いだ。子供の頃は可愛い響きで気に入ってたのに……あの純粋な頃に戻りたい。。。


 別に、両親から厳しい躾で虐待されたワケではなかった。愛情を込めて育てられたと思う。そんな愛しいメアリーが、今やどうしてこんな捻くれた不良高校生へと育ったのか……


 その理由を話すには少し長くなる。

 まずわたしは、自分で言うのもなんだけど頭が良い。そしてある時、通ってた小学校の宗教の授業中に、その教典の話の矛盾に気付いちゃったんだ。その時は気にならなかったのに、じわじわと疑問は広がって、そのうち誰かに訊きたくなった。神父様には怖くて訊けないから、取り敢えず両親に訊ねたんだけど、両親は質問を躱すばかりで納得のいく説明をしてくれなかった。それから納得出来ない事がどんどん増えていって、そんな不信感たっぷりの物語を信じてる人達が信用出来なくなっていった――


 幼い頃、ただ両親に褒められる事が嬉しかったわたしは素直に良い子に過ごしてた。

 けどわたしの本性は言いなりに過ごす日々を否定した。さっきも話したけど、わたしは何か一つが気に入らなくなると、それに関連する全部がイヤになる。授業で聞かされた教典の話に引っ掛かってから、その宗教全部が嫌いになった。

 結局、神様ってヤツは自分の思い通りにならない人達を色んな方法で苦しめて、殺して終わり。マフィアのボスかよ!それなら自分が悪いって自覚してるゴッドファーザーの方が100倍好きだ。

 両親がよく連れて行ってくれてたお陰で、あたしは映画が大好きだった。親は嫌がったが、特に人間同士の騙し合いや、マフィアの抗争といったジャンルに目がなかった。ちなみにこの国で作られる映画には大体、あの宗教的な表現が隠されてる。ストーリーの進行を暗示するような描写とか、伝わる人にだけ伝わる便利な暗号だ。そういう教養という面では、確かに宗教を学んで良かったとも思う時はあった。けれどガッツリと教典の話を下地にした物語は、勧善懲悪のご都合展開でつまらない。

 現実の世界じゃ、弱者が救われるなんて事は滅多に起こらない。悪者が得をして、真面目に善行を積む人はその努力を陰で利用され、面の皮の厚い連中に使い捨てられる。


 わたしのお爺ちゃんがそうだった。お爺ちゃんは例によってその宗教の教徒で、仕事は町の大工だった。腕は確かで、年老いてからも現役だった。けれどある台風の日、雨の中、大工道具を持って出掛けたお爺ちゃんは、次の日には帰らぬ人となって見つかった。

 聞くところによると前日に、雨漏りの修理を頼んできた人が居たらしい。修繕作業はその日のうちに終わったものの、作業中に「そういえば……」と雑談で話したのが、町にある教会堂の屋根に関してだった。うちの町のそれはかなり古い建物で、屋根にシンボルとなる十字架が無ければお化け屋敷と言われても信じる様な見た目だった。

 丘の上に建つ小さな教会堂だったが、わたしのお爺ちゃんは何を思ったか台風の日に教会の屋根に登って、足を滑らせて死んでしまったのだ。

 きっと前の日に話してた事が気になって、お爺ちゃんもじわじわと頭の中に拡がったモヤが消せなくなったのだろう。もし台風で屋根が壊れたら……建物は一部が崩れてしまうと、全体が危ないのだ。

 お爺ちゃんは屋根の補強作業を完成させていた。そのお陰で、教会堂は台風を耐えて今でも健在だ。わたしは大好きなお爺ちゃんが命を賭けたこの仕事を、記念碑を建てるレベルの功績だと思った。しかし教会側は、私達になんの御礼も、謝罪もしてくれなかった。

「仕事を依頼していたのならまだしも……本来なら、器物損壊罪か不法侵入で訴えるところです。今回はお亡くなりになられていますから、追い討ちを掛けるような事は致しませんが」

 悪徳な神父の台詞である。ひと言でも余計な謝罪や御礼を言って、万が一訴えられたら困るとでも思ったのだろうか。

 ふんぞり返った態度のアイツに、わたしの両親はあまつさえ御礼を言う始末だった。


 それからだ。わたしが教典の矛盾に気付き、早めの反抗期が始まったのは……

 

 

 

 

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