第7話 「サンタアイテム」

リビングに行って、母さんに芽依のことを報告する。


「女友達を今日家に泊めたいんだけど」


「相手が良いって言ってるなら良いんじゃない? 紫音の服とか貸してあげてね」


 もうちょっと質問されるかと思ったけど、そんなこともなかった。説明する手間が省けて良いけど、この軽さは不安にもなる。


 芽依を風呂に入れ、俺は自室のベッドに寝転ぶ。まさか俺が女の子を家に上げる日が来るとは。


「珍しいこともあるもんだ」


 我ながらそんなことを思ってしまう。ベッドの柔らかさに眠気が誘われ、瞼が重くなってくる。睡魔と戦っている内に芽依が風呂から上がったらしい。俺の部屋に入ってくる。

 妹の寝間着を着た芽依はどこか幼く見えた。


「それで蒼樹さん、進展はどうでしたか? 今日のデート」


「見てたなら分かってるだろ……全然だったよ」


 普通に遊んで、普通に食事して。特別なことはなかった。


「全然って程でもないと思いますけど。まあ、蒼樹さんが納得してないならそうなんでしょうね」


 小さくため息を吐いてから、芽依は俺に指を突き付けて、言う。


「ということで、蒼樹さんをもっともっとサポートするために私も一肌脱ぎましょう!」


「なにをする気だよ」


 今日も芽依は手伝うといったが、そこまで役に立った記憶はない。


「私はサンタだっていうのは蒼樹さんも知っているでしょう? サンタの役割を与えられた私には、ある道具が渡されていまして」


 芽依はどこからか白い袋を取り出した。サンタと言えばお爺さんが大きな袋の中にプレゼントを入れて、トナカイとソリでそれを届ける。それの、袋だった。


「これはサンタアイテム……欲しいものを願いながら袋に手を突っ込めば願たものが出てくる優れものです。分かりやすく言うと、〇次元ポケットです」


「優れものとかそういう次元じゃねえだろそれ……」


「私が蒼樹さんに見つからず尾行できたのも、この袋に入ってるアイテムのおかげなんですよ」


「もうなんでもありだな」


 そう考えると、芽依が俺の言葉に反応してメッセージを送ってきたことも納得できる。


「一応縛りはありますよ? そこまで万能ではないです。出せるのは物だけですし、お金とか武器とか、そういうのは出せません。サンタですから、子供が喜んだり、仕事をしやすくなるアイテムしか出てこないんです」


 それでも欲しいものをいつでも取り出せるのは凄すぎる。


「どういう原理なんだよ」


「さあ? お父さんから受け継いだものなので私は詳しいことまでは」


 首を傾げる芽依。その顔に嘘はなかった。


「ちょっと話が逸れましたね。このアイテムを使って蒼樹さんを全力でサポートします! 欲しいものがあればできるだけ協力しますよ」


 サンタアイテムとやらの話が本当なら確かに心強い。他にどういう道具があるかは分からないが、少なくとも俺一人で動くよりは上手くいく可能性が高い。


「ありがとう。力を貸してくれ」


 芽依から差し出された手を掴む。


「正式に協力関係が成立したところで、私は紫音ちゃんの部屋に呼ばれてますので、そろそろ行きますね」


「どこで寝るんだと思ってたけど、紫音の部屋か。あそこ、ベッド一つしかないぞ?」


「一緒のベッドで寝るらしいですよ! 女の子と一緒に寝れるなんていつぶりでしょうか~」


 わくわくしながら俺から離れる。部屋から出る直前、俺の方を見て呟く。


「では、おやすみなさい。また明日ですね」


「ああ、おやすみ」

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