異世界メルヘンと、第二次産業革命編

第21話 拝領屋敷の隣は『トトロの杜』。

 9才になりました。大事件ですっ、父さまが拉致されましたっ、トランス王国の王城にっ。


 トランス王国の各地で、急速に領地開発競争とでも言うべき『開発ブーム』が巻き起こり、各大臣達は、自分の担当部門の開発に躍起で、そのため、優先順位争いなどが起きて領地での混乱が止まないそうです。

 本来、そのような調整は、宰相が陛下に進言して行うことですが、セジオ宰相では開発を、どのように進めるべきかの知識が不足しておりこの際、開発の先進領主である父さまに助けを求めたのです。


 でっ、父さまが『開発統制大臣』に任命むりじいされたのですが、、。

 それで、大問題は王都への赴任問題です。

 未だにラブラブな永久新婚夫婦の父さまは、単身赴任をしたくありません。

 でも、まだ幼い子供達を連れて王都に行くのは、不安があります。王都にはならず者が住むスラム街があり、田舎のグランシャリオのように安全ではないのです。


「困ったわねぇ、王都に行って子供達を屋敷に閉じ込めて置くわけに行かないし、いくら護衛達がいると言っても限界があるわ。」


「母さま、にいにいは王都に行かないんでしょ。にいにいが行かないなら、行きたくないわ。」


「にいにい居ないの?トットやだっ。」


ねえねえ、いないでちゅか、やでちゅっ。」


「う〜ん、飛行船を使えば、半日で帰れるが、行き帰りだけで二日取られるなぁ。毎週帰っても居られるのが一晩だけなら、厳しいなぁ。」


 う〜ん、通信技術が生まれていれば、自領でのリモートワークが可能なんだけどなぁ。

 さて、どうしたら良いのだろうか。


義父おとうさま、それでは私達が月の1週間くらい王都に行くのではどうでしょうか。

 それくらいの間なら、妹達も安全ですわ。」


「あら、名案だわ。一週間もあれば、あなたとゆっくりできて王都で買い物も出きるわっ。」

ディール

「そうだな。留守の間の領地をどうするかな。俺もリザもジルも留守となると代理をできる者が必要だ。うちは騎士爵当時のまま、儂が直接政務をしてきたからなぁ。侍従などおらん。」


「父さま、父さまの政務を一番知っているのはケビン騎士団長でしょ。ケビンさんを領主代理にして、騎士団長はディール副団長にすれば、いいと思う。」


「ふむっ、候爵になって今さらだが、侍従長もいなくて部下に爵位もないのは問題だ。

 よし、ミウも大きくなったことだし、乳母の

ヨーダを侍従長にして、館のことを任せよう。

 ケビンは子爵にして、領主代理にする。後任の騎士団長は、ディールだ。

 ディールは男爵にする。侍従のヨーダは候爵家の侍従だから、自動的に2階級下の子爵待遇となる。良いなっ。」


 俺達家族の話し合いを、壁際に控えて聞いていた三人が、驚愕して固まっている。

 並んでいる他の侍女や騎士については、拍手喝采だっ。


「「「わぁ〜おめでとうございますっ。」」」


「「最高の人選ですぅ、ヨーダ様は優しいですから〜。」」


「おっ、我らのトップが男爵だぞっ。そうなると、小隊長達は騎士爵か。偉えこった、俺達が小隊長になれば、貴族だぜっ。」


「ディール騎士団長、騎士団の小隊長達を准男爵に任命する。各小隊に2名の副官を置く。

 副官は騎士爵に任命する。人選は騎士団長に任せる。以上だっ。」


「わぁ〜ぉ、大、大、大昇格だぜっ。」


「これで、他領の貴族達に、へいこらしなくて済むぜ。他領に来て威張り腐るなってなっ。」


 ということで、母さまと妹達は月末の週に、王都に行くことになった。

 王都に用意された屋敷には、くの一侍女が30名と、准男爵になった第5小隊長のマンデーが同じく30名の隊員を率いて赴任した。




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 父さまの王都赴任に先立ち、拝領された屋敷の受領と見分に俺とシルバラがやって来た。

 だって、転移魔法が使えるのは、お前だけだから行って来いと言われた。

 屋敷は三階建てで広大な敷地があり、王都の繁華街と王城との中間というか、三角形の位置にあって、ぽつんと森が残る場所だった。

 元、王家の隠居所であった屋敷ということでなんと200年近くも空き家だが、手入れが欠かさずされており、特別傷んではいなかった。

 その代わり、敷地の半分以上は鬱蒼とした森に大木が生えていて、まるで『トトロの杜』のようだった。

 高い背丈の生い茂った森へと続く草地には、トットとミウがトンネルが作ることだろう。


 一応、俺の魔法で屋敷の周り5mの草地と、正門裏門までの道を石畳に変え、屋敷の概観はそのままに、屋敷の内壁にパネル構造の壁を貼り付け、屋敷全体にクリーンの魔法を掛けた。

 黒ずんでいた板壁や屋根が真っ白になって、まるで新築のようになり、焦って、落ち着いた灰色の壁に塗り替えた。

 

 シルバラのリクエストで、例によって隠し階段やどんでん返しの壁を作り、屋敷の周囲各所に魔法具の、人感センサーの照明を付けた。

 加えて、敷地内各所に魔導具の監視カメラを取り付けて、屋敷二階の警備室と三階の居室に受像画面を設置した。

 これ全て、俺の魔法だ。領主館の改造をした時に、イメージした物を創り出せることが判明したんだ。でも、この世界にないものを創ることは、知られるとまずいので極力控えている。


 一階は、来客の応接室と大広間があり、二階は騎士団の食堂、風呂、寝室などがある。

 三階は、俺達の居住空間で、半分は侍女達の秘密の居住スペースとなっている。

 室内は、和室と洋室、和洋折衷の部屋が混在しているが、変化があって飽きないだろう。

 そのほか、屋根裏には家族だけが知る秘密の隠し部屋があり、妹達の秘密基地となっているのは、領地の館と変わらない。

 



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 いよいよ、王都への父さま赴任の日が来た。

 今回は、王都の屋敷での皆んなの荷ほどきもあり、家族も全員同行する。

 俺の転移の魔法は秘匿しているので、飛行船での移動だった。飛行船の空の旅は、ちび妹達がキャッキャッと騒いで、賑やかな旅だった。


 王都の屋敷の脇の草原に飛行船が着陸すると先行していた騎士団が迎えてくれた。

 失敗したっ。こんなことなら、先に飛行船が着陸する広場を作って置くのだった。

 背丈より高く茂った草の中を、ミウとトットは騎士に肩ぐるまされて屋敷に向かった。

 相変わらず二人は、キャッキャッと歓声を上げているが、肩ぐるました騎士は周囲の警戒に気を配り真剣だ。屋敷に着いて、ちび達にお礼を言われ赤くなって照れていた。


 初めて来た皆んなは、屋敷の概観にも驚いていたが、屋敷内に入り案内すると、どんでん返しの壁や隠し階段に目を丸くしていた。

 領地の館では、家族とお付きの侍女しか知らなかった秘密の装置だからね。

 ここでは、来客の目に触れないようにして、皆に利用してもらうことにしたんだ。



 荷物の片付けが終わると、警備の騎士を除く全員で、引っ越し祝いの食事会をする。

 食事はあらかじめ領地の館で作り、俺の空間収納魔法で保管してあったの料理だ。

 それを並べてバイキングで食べる。ちび達がバイキング大好きなんだ。甘いもの取り放題だからね。母さまとセルミナが恐い目で監視しているけど。


「いやはや、この屋敷には驚きましたな。

 教えられなければ、壁がひっくり返るなど、分かりませんぞ。第一、いくら見ても見分けが付きません。」


「隊長、でもこれは凄い防衛になりますよ。

 とっさに逃げられますし、不意打ちを喰らわすこともできます。」


「うむ、騎士の皆は、明日から屋敷内を走破させねばな。早く屋敷の仕掛けを覚えなければ、警備ができぬぞ。」


「すぐ覚えるさっ。明日から俺も敷地の整備をするよ。広場や小道がないと不便だよね。外に水飲み場やトイレも作らなきゃっ。」


「坊っちゃん、庭は作らないんですかい。

 姫様達が遊ぶ場所がありませんぜ。」


「妹達は、自然の草原や森の方がいいのさ。

 でも、母さまのためには花壇とお茶する庭を造るかな。この屋敷には中庭がないしね。」


「明日は、警備室のカメラを説明するね。 

 三つの分隊ごとに操作を教えるよ。」


「それにしても坊っちゃん。俺達の制服の下の黒装束は何ですかい。中に着込む楔帷子とか、籠手や脛当、鉄底の靴。

 制服はすぐに脱げるし、脱げばまるで夜盗のようですぜ。」

 

「母さまの趣味です、我慢してください。

 いつか皆にも分かる時が来ると思います。」



 来ないかも知れないけど、それは黙っておこう。皆んなに忍者ハットリくんを見せる訳にも行かないしなぁ。



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