第9話 トランス王国の謁見と、孤児の姉妹。

 王城で謁見並びに昇爵の儀が執り行われた。

 なんで父さまの隣に、俺が並んでいるかというと、俺も叙爵されるらしい。


「アルファロメロ • グランシャリオ騎士爵。

 此度の隣国ナルト王国への支援、誠に大儀であった。ナルト王国の王からは、丁重な礼状とお礼の品々が届いておる。

 その功績は、誠に多大であると認め、男爵に昇爵するものとする。おめでとう、男爵。」

 

 トランス王の御前で、セジオ宰相から昇爵の言葉が言い渡された。


「時に男爵、以前から報告に上がっている塩の増産と農地の開拓改良は、そこの嫡男が成したと聞くが誠か。」


「はい、我が息子、ジラルディが成したことにございます。まだ、その規模は領内と隣領を賄う程度にございますが、数年先には国内全般に恩恵をもたらすことができるかと思います。」


「見ればまだ幼子ではないか。ましてやたった一隻の船で異国の艦隊を葬り、ナルト王国の危機を救ったと聞く。誠にその子が成し得たことか。」


「ジラルディには、神より賜った我らには知り得ぬ知識がございます。その知識を活かすには今少し時間を要しますが、いずれ必ずこの国に貢献できるものと思っております。」


「わかった。ならばジラルディよ、そなたを準男爵に任じる。父と共に、国の発展に貢献してくれ。」


「「「おお、稀に見る貴族の誕生だっ。」」」


「遅くなったが、ナルト王国のシルバラ王女よ。此度のジラルディとの婚約、お祝い申し上げる。ジラルディは稀に見る逸材。二人の力を合せて、トランス王国とナルト王国両国の友好の架け橋になってほしい。」


 それから、昇爵披露パーティが開かれたが、俺は各種大臣や高位貴族達に囲まれて、質問攻めにあった。

 乗って来た飛行艇の原理から、最近王都にも伝播した料理の数々、農産物や魚介の加工まで質問は尽きることがなかった。

 その結果、各地の貴族領や王城の担当者達がこぞって、グランシャリオ領に視察、兼研修に来ることになってしまった。

 父さまは、視察や研修の高額な謝礼を、受け取れることになって、ほくほく顔だ。

 また、それがきっかけで、グランシャリオ領の入口に蔓延る山脈の街道整備が王家の負担で行われることも決まった。


「はぁ、シルバラごめんね。俺の隣にいると、せっかくのご馳走を食べる暇がなかったね。」


「ううん、ジル君の話が聞けて楽しかったわ。

 侍女のラフィーネが料理を包んでくれているから、部屋に帰ってゆっくり食べましょう。」


「ああ、それは助かる。お腹ペコペコだよ。」




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 侍女のラフィーネ達は、パーティの料理や飲み物を、たっぷり20人分も持ち帰っていた。

 だから宿に帰ると今回の王都同行者全員で、昇爵の二次会パーティになった。


「シルバラ様、このパイ包みがとても美味しいですよ。」


「いえ王女殿下、このステーキの味が最高で、ございますっ。」


 ふん、ふん。皆んな俺よりシルバラのことを気遣っているよ。ちょっと妬けるっ。

 でもシルバラは、俺を一番気遣ってくれるし俺はそれで満足だ。満足と言ったら満足だっ。


「ねぇジル君、せっかく王都に来たのだから、いろいろ見て、お義母様とミウちゃんにお土産を買って帰りたいわ。」


「うんそうだね、母さまにお土産を忘れたら、どんな悲惨な目に会うかわからないしね。

 絶対買って帰ろう。」


「何がいいかしら?」


「母さまには、王都で流行している洋服かな。 

 ミウには音楽とか、そうだ、オルゴールとかいいんじゃないか。」


「わあ、選びがいがありそう。

 ラフィーネ、宿の従業員さん達から、王都の流行を聞いておいてね。」


「はい姫様、お任せください。街のお洒落な服装をした女性達にも、片っ端から聞いて回りますぅ。」


 おい、おい、程々にしておけよ。ラフィーネは良く気がつくし優秀なのだが、一生懸命になり過ぎて、無我夢中になってしまうからなぁ。




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 次の日、街の店という店を見て回り、すっかり夕暮れ時になり、とあるパン屋の前に来た時、パン屋の店先で幼い姉妹がパン屋の主人と話しでいるのを見かけた。


「昨日から何も食べていないんです。お金はないんですが、仕事を手伝いますから、どうか妹にパンを食べさせてくれませんか。」


 パン屋の主人は優しい人のようで、二人にパンを与えると、訳を聞いていた。


「いったい何があったんだ。親御さんはどうしたんだい。」


「三日前に病で母が亡くなりました。父はいません。教会の孤児院へ行きましたが、大人の人を連れておいでと言われて。

 知り合いもなく、頼れる人もいません。どうしたらいいのか、わかりません。」


 そう言って、女の娘は泣き崩れた。その娘はまだ幼く4才くらい、手を引かれたよちよち歩きの妹は2才にもなっていないだろう。

 俺は、その子達に近づくと声を掛けた。


「ねぇ君たちっ。良かったら俺の町に来ないか。話しを聞いていたんだ。孤児院に行くよりましな生活ができると思うよ。どうかな。」


 女の娘は、俺とシルバラの顔を交互に見つめ決心したのか、『お願いします。』と言った。

 姉の名前は、セルミナ4才だった。妹の名前はトット、もうじき2才になると聞いた。

 二人を宿に連れ帰り、父さまの許可をもらって、俺の侍女見習いとした。

 きっと、母さまが面倒を見てくれるだろう。

 それから俺は二人の家へ行き、母親の亡骸を火葬して、家にある幾つかの思い出の品を収納魔法で収めて、母親の遺骨と共に持ち帰った。


 数日後、知り合った多くの王城の人達に別れを告げ、飛行艇で王都をあとにした。

 セルミナとトットは、席が足りないので侍女達の膝の上だ。セルミナは空の飛ぶのは初めてだし、これから母親に会いに天国へ行くのかと侍女達に聞いて困らせていた。

 グランシャリオ領の館に着き、母さまに二人のことを話すと侍女見習いの件は却下された。


「こんな小さな子に侍女見習いなど無理だわ。娘達は私の娘にします。ジルの妹よ、ちゃんと面倒を見るのよっ。いいわね。」


 そんな訳で家族が増えた。二人は毎日驚きの連続で体験したことを興奮して話した。

 その一日の冒険談は、家族の増えたグランシャリオ家の夕食の話題の定番となっている。

 領主館の片隅には、セルミナとトットの母親のお墓がひっそりと建てられている。

 二人は毎朝起きると一番にお参りしている。

 産みの母と育ての母。セルミナとトットには二人の母がいる。

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