第17話 久しぶりの故郷


この18時間は掛け替えのないもの。奇遇といえばそうだけど。恥ずかしいけれど、今の自分には、そんな薄っぺらな言葉しか思い浮かばない。


 女性を愛するとは何だろう。

 これは一夜限りの恋なのか?


 ────それとも、旅先での寂しさを紛らわす一時の高揚感。あの海の蜃気楼のように消えてしまう一夜限りの旅人同士の戯れだろうか。けれど、佐織への想いは時がたてば経つほど大きくなる。


 やはり、彼女が好きなのだ。


 きっと、そうだ。


 ずっと、そんなことを考えている。恋は理屈ではないともいう。「感じたまま突き進め」という人もいる。なら、あの時、なぜ、追いかけなかったのだろう。


 どうしようもなく、だらしねぇ奴だ。

人を愛することに慎重な俺にはよく分からなかった。

いや、一旦火がついたら止まれない自分が怖かったのかも知れない。


 俺は不可思議な妄想を浮かべる。


 昨夜に一冊の本、「偶然という名の恋」というタイトルの書物を手に入れた。

内容は夜通し銀河を駆け抜ける寝台列車で不思議な女性に思いがけない恋をする。そこには、たまたまの出会いから始まる恋があった。


 偶然の神さまの悪ふざけから始まり、先が分からず何時果てるか分からない恋の空さわぎ。けれど、一夜限りの花火などにはしたくない。俺は続きのページをめくりたくなる。


 そもそも、男女の愛には最初から結果が読めるハッピーエンドの『予定調和』などいらない。頭の中で恋のそよ風が吹き荒れ、カザグルマがクルクルと廻ってゆく。


 実家までのバスの中で、沙織のことばかり考えている。


 ふと旅行カバンのポケットが目に入る。野球帽のペンギンが「早く開けろ」とはやし立てるようにも感じてくる。


俺は彼女の連絡先を聞くことを忘れていた。「後で見てください」そうした彼女の言葉を思い出す。中には慌てて書いたような手紙が1枚入っていた。


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