第9話 観察のち開始

 会場のボルテージはまだフェイズが殺し合いになる前だが、数年に一度行われる男性アイドルのソロコンサートよりも盛り上がっていた。


 そうだね、殺し合い、出場者、ギャラリーの三点セットが集まれば何が始まるのかわかるかい? ⋯⋯そうだね、賭けだね。アーイアアーイエビバデベットタイム。


 ある程度の情報は事前に公開されていて大体の人物が既に賭ける対象を決めていたが、実際に実物を見てみると公開されていた情報とはまた違ったモノが見えてきていた。


 佇まい、雰囲気、落ち着き、殺る気⋯⋯


 実際に見て見ないとわからない生きた情報。それは時に急な推し変を引き起こす。


 プロの殺し屋であるフォックスが一番人気なのは変わらず、だが若干とは言えない程度の数字の変動は起きていた。

 精神的に未熟で大した活躍も出来ない未成年はいまいち人気は少ない。競馬で大穴に賭けるリスクなど比較にはならない程の大金が動いているからだ。

 それでも、そんな不人気な未成年でも⋯⋯覚悟のガンギマっている者は、時に誰も予想だにしなかったジャイアントキリングを起こす事がある。


 開催頻度は五輪より低いが、それでも何度か似たような催しは開催されている。

 ある時は受刑者達、ある時はとある高校の一学年丸ごと、ある時は各県の有名な不良グループ達、ある時は飛行機丸々一つ分の乗客、ある時は大型フェリー丸々一つ分の乗客、ある時は一般人を完全ランダムで選んで拉致して⋯⋯等々、決して表沙汰にはされていないが、何れも政府から反社会的勢力へ命令が下されて行われてきた事。


 今回は全員自分の意思での参加だが、突然の拉致で強制参加させられた人はどうだろうか。そういう覚悟の決まっていない成人は、結構な割合で未成年の保護に動くと過去のデータで出ている。


 最初期の混乱が上手い具合いに作用して、偶然保護グループにガンギマった異物が混入した事件があった。

 その少女は当時中学三年生。社会で浮く事なく上手に溶け込めるタイプのサイコパスで、保護されてから二日目の夜に保護してくれた集団を皆殺しにするという大変盛り上がる悲しい事件を起こした。

 それを知った参加者サイドも観戦者ギャンブラーサイドも阿鼻叫喚で悲喜交々。


 そのサイコパス少女は一つの集団をぶち殺した後、血と臓物が添えられた部屋で何事も無かったかのように仮眠を取った。起床後はまるで挨拶をするように人を刺し、そうするのが当然とばかりに欺き、裏切り、嵌め⋯⋯とにかく殺して回った。

 血塗れの服を着たまま泣き喚いて人を呼び込み、不意を突いて殺した。死体に紛れていたりもした。優しい人も、襲い来る人も、老若女、殺して、殺して、殺して、殺して⋯⋯見事優勝を勝ち取った。この時の景品は単純にお金だった。


 無事に殺し合いから解放されたその少女は三年程鳴りを潜ませて普通の生活を続け、四年目に盛大にサイコパスを解放。


 大学からの帰宅時の装いそのまま病院へと赴き、日付けが変わる迄にお手製爆弾を用いて全員を殺害し、病院を瓦礫に変えた。

 被害者の中に偶然男(70代)がいて、巻き込まれて死亡。その事で本気になった軍と警察を相手取って善戦できるはずもなく、敢え無く逮捕され裁判も何も無く即刻死刑となった。被害者に男性が居れば被害者の人権は消え去るのは仕方ない事だろう。70代とて、まだ死ぬ迄に何人かは孕ませられるのだから。

 殺せ!! 殺せ!! 殺せ!! を合言葉にして立ち上がった国家権力の本気は怖い。その事件以来、義務教育にその事件の詳細が記載されており、誰しもが男は殺してはいけないと心に刻まれている⋯⋯


 閑話休題


 まぁそんな事もあって、プロの殺し屋よりもコアな人気が出る出場者がガンギマリ未成年なのである。


 邪悪役令息ガールと飼い犬レディの二人に結構な票が流出し、眼鏡スレンダーにもそこそこ票が入った結果、第一回女券販売終了時の人気はこうなった。


 一番人気:フォックス

 二番人気:サイコパスリッパー

 三番人気:飼い犬レディ


 因みに第二回販売は一日目終了後~二日目開始迄。

 第三回最終販売は四日目開始~四日目終了時迄。


 払い戻し金額は初回が一番高く、最終が一番低い。

 初回から最終まで同じ券を買い続けてそれが見事に当たればかなりの配当があるが、オッズの魔法があるので今回の様に一強状態だと初回は無難さを排してリターンを求める傾向がある。



 さぁ、見事予想を的中させてメスリカンドリームを掴むのは誰になるのか、今後の展開に乞うご期待!!




 ◆◆◆◆◆◆◆




 円形闘技場在住のラストサムライ近藤はお披露目を終えて個室に移されていた。


 デスゲーム参加者を移す巨大モニターには近藤は映らない⋯⋯が、超VIPコースで参加した者達には近藤の個室に仕掛けられた盗撮カメラでその様子を余す事無く見る事が出来るサービスが付いていた。

 近藤の部屋は某甘党捜査官が容疑者の監視で部屋に仕掛けた監視カメラのような感じになっているが、近藤にはカメラを探してくれる存在は憑いていないので気付く事は無い。

 VIPコースには定点盗撮カメラの映像、普通の参加者には特に何も無い。会場で巨大モニターに視線を向けていない者は、きっとVIP以上で参加した者なのであろう。



「あー⋯⋯鼓膜は無事か、良かった」


 本人の知らない所でほぼ視聴率100%の男が起きた。何故寝ているのに視聴率はほぼ100%かと言うと、性欲を持て余しすぎていた素人童貞君は寝ていてもサムライソードの黒光りする刀身を晒していたからである。

 気絶させられても失われないサムライソードの輝きは世の女性の目を釘付けにしていた。未確認生物系の番組が映像技術の発達した近年でも一定以上の人気を博しているのと同じ理由である。知らない物男の形のナニかには強烈に惹かれる、人間の心理。


「うわぁ⋯⋯ギンギンやん。くっそ抜きてェけど卒業が現実的な今、俺には我慢する選択肢しかない。笑いたきゃ笑え。これが年齢イコールまで熟成された童貞の童帝たる所以なのだ⋯⋯」


“謎の言い訳可愛い!! 食べちゃいたい”

“( ゚∀゚)o彡゜童帝!! 童帝!!”

“んほぉぉぉぉぉ”

“腫れてて可哀想、看病してあげたい”

“この米欄、処女臭すぎぃぃぃぃ”


 生配信主たる近藤には見れないが、この配信サービスにはコメント機能が付いていた。

 男のプライバシーに全く配慮していない生配信⋯⋯だがそれがいい!! 謎の背徳感と生男の生態を隅々まで見れる生々しさに興奮はMAX。視聴率がほぼ100%止まりで100%になっていないのは、支給されている超吸水パンツ押収物を替えに行っていたり、我慢出来ずシコりにいったヤツの女賢者タイムの所為であったりする。


「収まる気配が無い⋯⋯あ、テレビあるじゃん。テレビでも見て、気を紛らわそ」


“テレビって今の時間何やってるっけ?”

“知らね”

“割れ目に中がいいと思うの”

玄人ばいにんが居るぞ”

“てかよくあんなの昼間っから流せるよな”

“割れ目の時に振り込むと中の形に似たバイブが挿入れられる脱衣麻雀”

“そんな事よりも私のちゅんはくはつして大三元妊娠がいいの”

“黙れ処女!! 貴様に童貞は救えない”


「どうしよ⋯⋯全部馴染みがない⋯⋯まぁいい余計にムラつくけどこの麻雀見よう。このあと一回振り込んだら全裸にされちゃう子可愛いし。

 てかこれ、深夜でもアウトじゃないの? 何でこれが全年齢対象なんだよ!! UHKってとこ勇気ありすぎぃぃぃぃ!!」


“女魔王結構好きだったけど、たった今大嫌いになりました”

“同じく”

“はげど”

“多分これもう中済んでるわね。メス顔晒して誘惑するとか許せん”


 超攻撃的な麻雀で人気を博すプロ雀士にアンチがかなり増えてしまった。完全な巻き込まれ事故である。


「割れ目でP〇Nなら払い二倍とかだけど、コレなんだよ⋯⋯中っぽい形のバイブが挿入るのか⋯⋯私は中になりたい」


“この男の人の形をした中バイブ幾らで売ってますか?”

“私、オナグッズメーカーの社長だけど、このイベント終わったらこの男のサイズと形でグッズ量産するんだ⋯⋯”

“いつもお世話になってます社長(`・ω・´)ゝ”

“(ΦωΦ)ゞ”

“(`・ω・)ゞ”

“てかそろそろ本編に動きありそうだけど、お前ら見ないの? あ、お世話になってます社長”


 近い将来に大ヒット商品が世に出る事が確定した歴史的瞬間であった。ちなみに死亡フラグっぽい事を言ったが特に何も無く、ただちょっとだけ過労死寸前迄追い込まれる程度である。


「⋯⋯あかん、自摸や打牌する時にたゆんたゆんする所為でちっとも麻雀が頭に入ってこない。てか余計にチ〇ポがイライラしてまう」


 ビキビキとイキり勃つチ〇ポを一擦り。とても悲しい気持ちになる。

 もう縛りプレイ禁欲は止めていいんじゃないかな? でもなぁ⋯⋯このクソ程溜まった白濁液を、俺の初めてになる女の人にぶっかけたいじゃない? それが外か内か問わずに。きっと気持ちーぞーって気持ちもある。

 あーやるせない⋯⋯次に誰か入ってきたらガチで迫ってみよう。幸せな卒業になってくれる気がする!


“おっぱいってただ意味も無くぶら下がってて重いだけじゃなかったんだな”

“ほんそれ”

“私の方がたゆんたゆんするよ!!”

“お前は二の腕も腹も背中もたゆんたゆんしてるだろいい加減にしろ”

“そのチンイラを私にぶつけてください!! なんでもしますから!! あ、それとスパチャはどうすれば出来ますか?”

“ん? 今なんでもするって”

“プロ雀士でおっきさせてるの見るとなんか悲しいようなムラムラするような不思議な気持ちになる”

“ちょっおま⋯⋯それ⋯⋯おや、誰か来たようだ”

“惜しくもないヤツを亡くした”

“あ!! こっちが本編と思ってたけど、本来のイベント始まってたよ!!”

“おん? ちょっwwなんで戦闘禁止時間明けて三分で一人死んでるんだよww”

“あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ”

“あっ⋯⋯(察し)”


 一人ムラつく近藤を置いてけぼりにしながら、野郎争奪戦はひっそりと膜を広げた。もとい、幕を開けた。




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 ・人物紹介?


 バイブメーカー女社長 42歳

 大学卒業時に実家のバイブメーカーに就職

 ダーリン君と名付けられたバイブの製造メーカーを20年で最大手にした超やり手

 このイベントが終わったら優勝者と交渉して男のチン拓を取らせて貰う予定


 女魔王

 プロ雀士 年齢非公開

 超大物手ばかり狙う超攻撃的麻雀を打つスタイルで人気を博しているが、本人の預り知らない所で有力者から相当なヘイトを買った哀しい人


※全く関係ありませんが、作者は魔王様とサクラナイツを全力応援しております(ヨイショ)

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