第3話 寝ている隙に色々進む

 な⋯⋯なにを言っているのかわからねーと思うが 俺も何をされたのかわからなかった⋯⋯催眠術だとか幻術だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ⋯⋯


 なんて事を口走ってしまうほど、私は今混乱している。


 色々と煩わしいモノを急いで片付けてから依頼人に報告に行ったら、何故か依頼人が死んでいたんだ。

 今回の件は厄ネタすぎるから、彼処が指定してきた安全の確保されているという場所へとわざわざ出張ったというのに⋯⋯


 無事に到着してインターフォンを押した所までは確実に生きていた。そこから依頼人の待つ部屋へ行くのに大体一分。


 本 当 に な に が あ っ た


「⋯⋯貴女は近辺の防犯カメラの情報を解析して怪しい人物が居れば報告よろしく。貴女はこの建物の完全封鎖を。貴女は―――」


 部下に指示を出している間に状況整理に全力を出す。そして⋯⋯


 ―――心当たりというか、ほぼ此奴が犯人だろという人物が浮かんだので電話を掛ける。


「もしもし、あのさ、お前⋯⋯依頼人殺した?」


 即座に通話に応じたフォックスに内角をエグるカミソリシュートを投げ込む。


『知らない、何故そんなどうでもいい事を聞く? それに、今一番殺したいのは司令、貴女』


 嘘を吐いているようには思えない声色で物凄く怖い事を宣うフォックスに戦慄する。え!? 何、脱処女を邪魔された件を根に持ってるの?


「任務の重要性は理解しているでしょ? 何で私を恨むのよッッ!!」


『てかなに? 依頼人死んだの? へぇ⋯⋯』


 暖簾に腕押し⋯⋯心底どうでもいいように聞き流したフォックスが、拗らせ処女特有のネチャッとしたナニかを含んだ声を出す。ヤバい事考えてるんだろうね、私も似たような事思ったもん。本当に、任務さえなければねぇ⋯⋯


「何を考えてるのか大体は察したけど、実行に移すのは止めなさい。多分これから忙しくなるからシコるのは程々にして身体を休めておきなさい。いいわね?」


『⋯⋯チッ、了解』


 不承不承といった調子の返事の後、ブツン――と通話が切断される。本当に行動するのは止めなさい。忠告はしたからね⋯⋯


 さて、大本命がスカった訳だけどこれからどうすればいいのかしら⋯⋯と心の中で呟く。フォックスとの通話中からずっと震えている携帯。出たくないけど出るしかないよね⋯⋯はぁ⋯⋯




 ◆◆◆◆◆◆◆




 日本最大の反社会的勢力「女陰組」。

 司令の居る組織に忍び込ませていたスパイから、耳を疑う一報が届いた。


『完全フリーの男性を保護』


 届いたのはこの一文だけだったが、意味を理解すると全身が粟立った。


 このご時世にフリーの男など、権力者がその全てを使っても確実に手に入れられる物ではない。

 今この組はこれ以上成長が望めない所に来ていた。これ以上を望むとなれば、権力者や有力者とのパイプをもっと太くし、数を増やさなければならず、しかし権力者共が望むのは決まってフリーで健康的な男。

 男は生まれてすぐ一人一人が政府に厳重な管理をされており、仮令そのセキュリティを突破して攫えたとしても簡単にアシが付いてしまう。リスクとリターンが全く合わないのだ。国最大の組だとしても構わず即座に国の戦力が殲滅に掛かるだろうレベル。

 そんなモンを簡単に手に入れられるなら苦労はしないのである。ここ二年程、方々に手を回し続けても手掛かりすらなかったモノが今、手で掴める位置にある。


(あの組織にはフォックスが居る⋯⋯敵対はしたくない。が、これは千載一遇の好機⋯⋯逃す手はない。ならばどうすればいいか⋯⋯)


 若くして組の若頭に就く程の才媛。その天才的な頭脳たっぷり十秒使って即座に最適解を弾き出す。


「これしか無い⋯⋯か」


 スマートフォンに手を伸ばし、通話を開始する。


「フォックスか、お前の組織が男を保護したそうだがお前は我慢を強いられていないか? こちらに良い案があるんだが乗るか? 流石に無条件でお前に渡すと面倒が降り注ぐからさ、そうだね、お前ならその男を合法的に手にいられるイベントを開催してやる。もしこの案に乗るのなら―――」


『乗った。話せ』


「ククククッ、いいだろう。では手始めに―――」



 依頼人が殺害されるほんの少し前に、こんなやり取りがあったらしい。




 ◆◆◆◆◆◆◆




『司令ッ!! 保護していた男性がいませんっ!!』


『警護につけていたヤツらだけではなく、救護のヤツらも皆、殺されています!!』


『防犯カメラの映像、全てダミーに切り替わっていて犯人の割り出しは不可能ですッ!!』


『司令―――』


 執務室で一人、頭を抱えて項垂れる自称メガネビューティー。

 部下からの報告は耳を覆ってしまいたくなるものだけであった。


(ウチの組織相手にこうもまぁ⋯⋯この手口というか手並みの鮮やかさは絶対にフォックスよね⋯⋯ここで裏切られるとは思わなかったわよッ!!)


 この蛮行はもう全てアレの仕業だと断定し、それ前提に思考していく。

 ここら一帯に居るアレの同業者にはここまでの実力は無い。他の組織の仕業ならばここまで綺麗に目的を遂行しない。機密の類が全て無事なのがその事を物語っている。


「やっぱりあの時の恨みじゃんか!!! という事は私の命も危うい⋯⋯はぁ」


 別に命は惜しくない。古今東西、方々に物凄い数の恨みを買っているのは自覚している。私の中では老衰での死亡なんて都市伝説と言えるくらいだ。


 ただ⋯⋯


「はぁぁぁ⋯⋯こうなるんだったら、フォックスと一緒にあの男を睡姦しておくべきだったわ。唯一の心残りは処女で死ぬって事だけ、か」


 ちょっとした不注意や一つのボタンの掛け違いで、意図も容易く未来へ続く人生のレールはあらぬ方向へと向かう。平坦な道からアップダウンの激しい道へ、暗い暗い地下道から明るく長閑な道へ、普通の道と思ったら突如―――道が途切れていたり。


「ふふふふ、人生って本当にクソゲーだわ⋯⋯」


 最近は控えていた煙草を取り出して火を付けた。吸わなきゃやっていられない。吸いたくなったから、吸う。禁欲なんてするだけ無駄よ。


「あと二分程待っていてちょうだい」


 何処を見るともなく、虚空へ向けて言葉を発する。


 確実に密室。確実にこの部屋の中には私一人。


 その筈なのに、さっきから殺気が凄い。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ⋯⋯⋯⋯」


 短くなった煙草を最後に目一杯吸い込んで煙を吐き出し、灰皿代わりのちょっとだけ中身の残った缶コーヒーの缶の中へと落とす。


 ジュッ―――


 落とした煙草の火種が液体に触れた音。この音、結構好きだったなぁ⋯⋯⋯⋯






 ゴトッ





 ◆◆◆◆◆◆◆




「⋯⋯いや、何これ? 本当に何これ? えっと特殊メイクかナニか? 造り物よね? 違う? いやいやいやいやいやいやいや⋯⋯おかしくない?」


 アタシの前には昏睡状態の成人男性、その裸体。


 この男の名は近藤こんどう 無我むが

 この男の所持品と思われる財布の中には見た事も無い渋いイケオジ様が描かれた紙幣と、全く見た事も無い住所の書かれた免許証。5000と書いてある紙幣らしき物は要らない。


 これは壮大なドッキリか何かなのかしら⋯⋯そう思いつつ、ちょっと大きい黒子のあるおじ様とお髭の似合うおじ様の肖像画から目が離せない。それと、男の裸体からも。なんで人には目って二つしか無いの?


「ぐふふふっ⋯⋯はっ!?」


 いけないいけない、ちょっとアタシには刺激が強すぎてトリップしてしまっていたわ。

 コホン、それよりもさもうコレは逆にドッキリであって欲しいわぁ。なんなのよ、こんな未知のモノを持つ男とかさぁ⋯⋯手を出してはいけないナニカに手を出してしまった気がしてならないわよ。


「⋯⋯⋯⋯」


 でも、そうよね、うん。

 こりゃあ駄目だわ。うん、駄目駄目こんなん。


「こんなモン見せられてしまってはそりゃぁフォックスが狂うのもわかるわ。⋯⋯大丈夫、私はこの1000て書かれた紙幣が貰えればいいから。だからその物騒な殺気をしまいなさい」


 本当はこの男を食いたかったけれど、強者相手に欲を出しすぎるのは良くないと知っている。


「⋯⋯⋯⋯」


 いつの間にか姿を現していたフォックスの冷たい視線が痛い。殺気を向けられていた時よりも居心地が悪くて辛い。


「はいはい、とりあえず開催は二日後、これはその企画書。それまであんたは見張りでもしておきなさい。其奴が童貞かはわからないけど一応童貞として通すから、やるなら挿入以外にしておいて。どうせ数日後にはあんたの物になるんだから⋯⋯」


「私にはわかる、コレは童貞。色々と熟成された臭いがして濡れる」


 途中で遮られた挙句、その口から出てきたのがコレって⋯⋯ドン引きである。何これ、怖ァ⋯⋯


「それなら余計にダメよ。いいわね? わかった? 今や伝説として語り継がれているノーハンドフェラやセルフイラマチオとかなら、その本物を使って練習出来るでしょ」


「⋯⋯!!!!!」


 一旦想像してみて納得したのか、喜色満面でその場から消えたフォックス。口内発射という禁忌に抵触する恐れがあり、重罪且つ伝説として名高いオーラルセックス。それが出来るとなれば、そうなる。因みに私は想像で濡れた。下半身が重い。


「さて、関係各所に通達しなきゃなぁ⋯⋯確か何とかって大臣が増えすぎた人口をどげんかせんといかんとかって言ってたしどっかの孤島でデスゲームは普通に通るわよね、一番確実なのは狐の尾が膨れたって言えば良いし。それにデスゲームにしないとフォックスの嫁入りに納得しないだろうな⋯⋯」


 正直超絶面倒だけど、頑張る。だからヒゲおじ様、私を応援していてね。




 ──────────────────────────────


 ・人物紹介


 影浦かげうら 弥夜衣やよい

 女陰組若頭 28歳 非処女

 初代組長の旦那の肖像画を見て渋いおじ様に興奮を覚えるようになった

 栗色ショートボブ ぴっちりスーツ着用

 経験して思ったことは“オナニーの方が気持ちいい”

 部下が言っていたゴーヤオナが気になっている

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る