第14話 試験結果 【Side アリシア】

「それでどうだった」



 お父様の執務室。お父様が執務デスクの椅子に座り、お母様と私はソファーに並んで座っています。


 そしてハルトとレイナの試験を終えて戻ってきた先生は、少し疲れた顔をしつつも、怪しい笑みを湛えていました。ハルトとレイナは部屋に戻ったようです。



「あの兄妹は天才です」



 先生が他人を褒めるのは珍しい事です。私も数えるほどしか褒められた事はありません。しかも相手は七歳と四歳の子供です。



「……天才とは?」



 真剣な顔のお父様。この場にお母様を呼んだのは何か意味があるのでしょうか。



「二人には、王立学院の入試問題を解かせてみました」



 お父様と私は頷き、お母様は少し不思議そうな顔をしていました。



「二人とも社会学は壊滅的でした」



 それは、そうですよね。少し前までは家無し子だったのですから。



「前置きはよい。結論を言いたまえ」


「失礼致しました」



 そう言いながらも先生は少し顔がニヤけていました。



「おほん、ではレイナの国語の点数は36点、ハルトの点数は70点でした」



「なっ……」


「まぁ〜」


「ハルトが70点ッ!?」



 お父様も、お母様も驚いています。って言うか、私もそうです。来年に受験するために、先日行った模擬試験で私の国語の点数は82点。勉強をしていないハルトと12点差しかないのです。


 そしてレイナが36点? けして高い点数ではありませんが、四歳で点が付く事が凄い事です。



「そして算術は、レイナが80点、ハルトが100点でした」


「なんとッ!?」


「まぁ、まぁ〜」


「レ……レイナに負けました……」



 私の先日受けた算術の試験結果は75点。四歳のレイナに負けました……。



「更に……」



 ま、まだあるのですか?



「王立学院の卒業試験に使われた算術の試験をやらせた結果、ハルトは100点満点、レイナは50点でした。ハルトは既に算術においては、七歳にして学院の高学年レベルです。レイナは文章問題以外は全て正解。レイナが読解力を身につければ100点を取る事も出来ましょう」



「「…………」」


「あら、あら、凄いわねぇ〜」


 言葉が出ないとは、まさにこの事です。私とお父様が唖然とする中、マイペースなお母様の声だけが部屋の中に響きました。





「それで、先生の見立てはどうだ?」



 心を落ち着かせたお父様は、今回のお話の核心に踏み込みます。



「先ほど申し上げたように、ハルトは天才です。何故あのような高度な算術の知識を有しているかは謎ですが、七歳にしてあれ程の算術レベルであれば、将来はになれる可能性があります」



 えっ、ハルトが魔術師? 魔術師は国内でも数が少なく、お父様の侯爵領でも有能な魔術師は百人もいません。



「なるほどな。話はそれだけではあるまい」



 相変わらずにこやか笑みを湛えている先生に、お父様が問いました。



「はい。レイナは間違いなく使です」



 私とお父様に衝撃が走りました。


 お母様ッ!「あらあら、まぁまぁ」じゃないですよ! 


 魔法使い。百万人国家の我が国においても有能な魔法使いは百人もいない逸材です。


 魔法使いは、魔法を学び覚える魔術師と違い、魔法適応力が高く、魔法感受性で魔法を使います。そのため、魔力量が魔術師よりも高く、複数の属性を使いこなす事もできます。



「ほ、本当なのか?」


「はい。試しに二人には魔法文字を見せてみました。そしてレイナはそれを読めたのです。魔法使いは魔法文字が生まれながらにして読む事ができます。間違いなくレイナは魔法使いです」


 お父様の肩が震え、顔が紅潮しています。


 

「八十年ぶりだァッ!」



 日頃は声をあげないお父様が、笑みを浮かべて大きな声をあげました。



「家族会議だ! オリバーとダージリンを呼べ。直ちに話し合いをする必要がある!」



 家族会議。お父様の弟にあたる二人の叔父様を呼びよせて行われる家族会議は、侯爵領及び二つの伯爵領における最高決定会議です。


 先々代の頃にいた魔法使いを最後に、侯爵領には魔法使いがいませんでした。そこに、いまレイナが現れた。


 ふとお母様を見れば、普段の緩んだ笑みに拍車をかけて、ニコニコとしていました。


 もしかしたらレイナは私の……。

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