第11話 レイナ? 【Side アリシア】

 ハルトが来て一週間が経ちました。彼は主に厨房にいるから会う事はありませんが、彼の評価は良いようです。


 先日、コック長のマルクスから水の味見をして欲しいと言われ、朝食の時に出されたコップの水を飲みました。



『お嬢様、如何ですか?』


『……ほんの少しだけ匂いますね。……かめに付いた汚れといったところでしょうが、特に問題はありません。この水がどうかしたのですか?』



 ハルトが違和感を感じたというお水の匂い。これも私以外に気付く人はいないレベル。


 フフ、ハルトを連れて来て正解だったわ。私と同じレベルの味覚感受性を持っている者が館にいるだけで、とても安心できますね。




 

 昼食後に中庭をお散歩していると、不思議な数字が延々と地面に書かれています。



「何かしら、これは?」



 地面には947、953、967、971……と、謎の数字が延々と書かれていて、その先を見れば、ハルトの妹のレイナがいました。



「何を書いているの?」


「数字ぃ……あっ、お姫様ぁ!」


「フフ、レイナは数字が好きなのですか?」


「は、はい! お兄ちゃんが教えてくれたのぉ。……でも次の数字が分からないのぉ」



 見れば1381で止まっていました。



「1382ではないのですか?」


「ううん。2は無いの。3か7か9……、う〜ん……うグッ、うグッ」



 あっ、泣きそうですわ。



「さ、3は?」


「ううん」


「じゃ、じゃあ7は?」


「ううん、それは19だから……」



 7は19? どういう事?



「では9は?」


「それは3………あっ! 1399!」



 1381の次が1399? レイナはいったい何を書いているのかしら?



「レイナは何を書いているの?」


「数字ぃ〜」



 ええ、それは分かっているのですよ。


 レイナは再び地面に数字をいくつも書き始めました。子供の遊びだから、何かの閃きで書いているのですね。





 午後になると、私は家庭教師の先生とのお勉強の時間になります。来年には王国学院の受験が控えています。


 学院への入学は貴族の娘にはとても重要です。学院に入れば自由恋愛が出来るのです。逆に学院に入らなければ親が決めた方と結婚することになります。


 ですので毎日のこのお勉強の時間はとても大切なのですが、今日はレイナの事が気になって、先生に質問をしました。



「先生、数字のお話ですが質問して良いですか?」



 少し白い毛が混ざり始めた温和な先生は、にこやかに「どうぞ」と言ってくれました。



「1381の次が1399になる事はあるのでしょうか?」



 先生は少し悩んだ後に、紙に幾つかの計算を始めました。



「アリシア様、それは素数ですね」


「素数? なんですか、それは?」


「3、7、11、13、17といった割れない数字ですね。ただ、素数を使う事はありませんので、覚えなくても大丈夫ですよ」



 素数? レイナは素数をずっと書いていたのですか?



「…………ありえないわ」


「どうかされましたか?」


「四歳の子供が1381の次を1399と解いたのです。しかも…………暗算で」





「こ、これは……」



 地面に書かれた数字を見て先生は唖然としていました。ただ、そこにはレイナの姿はなく、数字の最後は1867で終わっていました。



「本当に四歳の子供がこれを書いたのですか」


「……はい」


「……天才だ」


「……はい」



 四歳の家無し子だったレイナが……天才。そしてレイナはこう言っていました。



『お兄ちゃんが教えてくれたのぉ』



と。


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