第8話 あなたを雇います

「あなたを雇います」



 いきなり、そう言ってきた金髪の美少女。俺が彼女の美しさにほうけている間に、彼女は自己紹介を始めた。


 彼女はレイクランド侯爵令嬢のアリシア様。年齢は九歳で、俺より二歳年上になるとの事だ。


 アリシア様は、ドリアード子爵邸で行なわれた毒見役試験の時にいた執事さんから俺の事を聞き、俺を探していたらしい。



「これを食べて、あなたの意見を聞かせて貰えるかしら」



 彼女の白くて可愛い手に握られているのは干し肉だった。



「……毒入りですか?」


「それを、ここで私がやったら、私は犯罪者になってしまいますね」



 それはそうだな。さっきのは試験だったから、お互いが合意して毒入りパンを食べたが、今は違う。


 俺を雇いたいと言うからには、毒味試験だと思うのだが……。



「分かりました」



 俺はその干し肉を手に取り、においを嗅いでみる。俺のスキルは毒絶対耐性と毒解析。


 あと、スキルではないが、俺の体液には解毒効果がある。


 昔、レイナが拾い食いをしてしまい、腹を壊した時があった。食欲のないレイナに俺が咀嚼して食べさせたパンを食べたら、たちまち腹痛が治ってしまった事があった。


 さて、この干し肉だが不思議な匂いがする。なんだか不思議な匂いだ。毒ではないと言っているので食べてみる。



「お兄ちゃん、美味しい?」


「ん〜。初めて食べる味だな」



 街中の残飯を食ってきたが、この肉は食べた事がない。


 そして、毒は入っていない。



「このお肉が何か分かりましたか?」


「いえ、分かりません」



 アリシア様の真意は分からないが、嘘を付いても仕方ないので、正直に答える。



「えっ!? 分からないのッ!」


「は、はい……?」



 俺は何を期待されていたのか?



「あなた、あのパンのタバコの匂いに気が付いたのですよね? 味覚系スキルを持っているのではないのですか?」



 あのパン? 味覚系スキル? 


 なるほど、彼女は俺が味覚系スキルで、パンについていたタバコの匂いに気が付いたと思っていたのか。



 味覚系スキルが素材の種類を言い当てられるのかは知らないが、味覚系スキルも毒味役には適したスキルかもしれない。


 毒を口にした時の違和感を感じられるか、られないかで、毒味役の死亡率は変わってくる。



「いえ、匂いには気が付きませんでした」


「でも、あなたはアレを毒入りと言ったのですよね?」

 

「……はい。でも、あのレベルは毒とは言わないみたいでした」


「では、なぜあなたはアレを毒と判断したのですか?」



 言っていいのか? いや、もしかしたら俺を雇ってくれるかもしれないんだ。正直に話すべきだよな。



「アレは毒レベル0.4でした。お題は『毒の入っていないパンを選べ』って事だったから……」


「毒レベル? なんですか、それは?


「俺のスキルです。毒解析というスキルで、毒のレベルや毒の種類などが分かります。


「毒解析?」


「そ、それと――」



 俺はここぞとばかりに自分を売り込む。



「それと、毒絶対耐性を持っています! もし毒味役を探しているのなら、俺を雇って下さい!」



 アリシア様は、少し驚いた顔の後に、ニコリと微笑んだ。





――――――――――

【作者より】

 毒見役という、一風変わったお話を読んで頂きありがとうございます。


 毒見役は歴史的には酷い仕事ですが、お話上ではそこまで酷い描写は描きません。


 お話は三万〜四万字で終わる予定です。


 いま暫らくお付き合いを宜しくお願いします。


 もし宜しければ★評価を頂ければめちゃめちゃ嬉しいです。花咲は★1つでも嬉しいので宜しくお願いします。



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