舌禍メカ

玄葉 興

第1話 怪物にすら見えてきた

私は生まれてこの方、頭の固さだけには自信がある。いわゆる融通が効かないというやつだ。そんな性分だから当然いくらかの人には好かれることはない。けれど私はそれでもいいとは思っている。八方に美しく振る舞って綺麗に見られるよりも一人にでも華麗にうつればそれでいいのだ。


話は変わる。この社会の中で間違いなく発生すること。それは人付き合いだ。私のように細い糸のようなか細いコミュニティでさえもそれは生まれる。私はその細い繋がりをしっかり守る為に人を選んで付き合ったりしてしまうのだが、話を聞くには好きでもないのにわざわざ人に関わる奴がいるとか。挙句その結果、自身に不利益を被るまで進んでしまうケースも少なくないという。


「それって面白くなくないデスカ?」


失礼。うちで飼ってるロボットが勝手に喋ってしまった。こいつのことは気にせずに話を進めよう。確かに私もそうやって自分の立場を守る為に人とくっちゃべるというのは選択肢としては大いにありえる。ただし私は友達の定義がわからない。


おい。そこ。冷たい視線を向けるな。


「ずいぶん悲しい人デスネ。私でもわかりマス。」

うるさい。お前は早く掃除でもしてきなさい。話がややこしくなるから。

うっうん。私の話はやはりやめておこう。

それで私が付き合っていた人の中で何故か人の顔色しか見ない奴がいるんだ。それで、自分の顔色が分かんなくなってぶっ倒れる。

意味がわからなくないか?人に合わせているうちに自分のアイデンティティが崩れる。これほど滑稽な例は他にはないだろう。無理して付き合うことほど面倒くさい物はない。私は「それ」を知っている。わざわざそれをするヒーローみたいな奴もいることも分かってる。でも私が思うにその友達とヒーローには明確な差異があるんだ。


例えばペアワークとかな。そいつは自分が孤立しないように人と接する。ヒーローは相手が孤立しないように相手に向かう。

ほら、これだけで思慮深さっていうのが見えてはくるだろう。そして。この中には私に対していま、めちゃめちゃにイラついてる人がいるのかもしれない。貴方が行っていることを否定したいわけではない。もちろん有意義に世渡りするための処世術という戦略的なことなのはわたしにも理解はしている。

それでも今私がしたいのはその友達への率直な疑問に関する話だ。できればその怒りは私の話の終わりの近況ノートにでもぶつけておいてもらいたい。(公序良俗に反しない程度に


そいつは全てを喰らう。生き方しかり。好きな物しかり。ましてや身分とかをも。

私も始めのうちはただ真似しているだけ、

羨ましさもあるだろうし、第一私や他の人のやってることを見て憧れてくれているならばかわいいやつだな。とかその程度だった。

けれど少しづつ形が歪んでいる気がする。

私の持っている連絡ツールのスタンプ。なぜ同じものをそんなに持ってる?

ゲームで使用するキャラクター。何故わざわざ同じものを使う?

その口調。まるで共通の奴の口癖みたいな。

見てて気に入ったから。単純に強いから。

話してて感染っちゃったから。


そんな簡単な話じゃない。


いつ見てもそうだ。他人の真似事。いつだろうか。何かのテレビで見たことがある。

<同一化> 他人のはずなのに、自分に重ねていく。なぜ?なぜ?なぜ?

自分なりの道を進めばいい。分からなくなったら人に聞いたりすればいい。自分で勝手に進めるのももちろん構わない。でもそうしてできた道のりが他の人の後追いだけなんて。


「空虚。スッカスカ。というよりも鏡?」


それを自分でもわかってる。わかってるから他の人の独流から水を引いて自分に入れる。

その結果生まれるのは混ぜ合わせで己が欠けていったコピペだらけの濁流。勢いは増し、人にも強く影響を与えるようになる。そうして自分が作られていると錯覚してしまう。


「その実、全ては人のものというのにも気づかずに、デスネ。」


あぁむしゃくしゃする。そんなやつが人に対して文句を言っていいものなのか。批判するべき立場であるのだろうか。自らも固まっていない泥人形から飛び出たものなんぞクソ喰らえって感じだ。いらいらするいらいらするいらいらする。仕方ない。もういい。

少しずつ糸が減っていくのも心的には厳しいものだがまた一つ、代わりの糸を増やせばいい。彼の糸は他の人と変わり映えのないものなのだ。いくら切っても問題はない。

じゃあその仕事は彼に任せるとしよう。

出番だぞ。舌禍メカ。


「はい。かしこまりマシタ。

口は災いのモト。目は口ほどに物をイウ。

災いを転じて福となせぬのナラバ。

いっそ消えてしまいマショウ。

幸災喪苦言」


その瞬間。世界から爆発が聞こえる。根源から何かが消える音。プチンと糸が切れた音がする。ぶらーんと垂れ下がる糸には力がない。


「こうしてまた一つ災いが爆発してなくなりましたトサ。めでたしめでたしってネ。」


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