第2話「婚約解消の提案」



「エドワードとの婚約を解消する?

 なぜだお前たちはうまくいっていたのではなかったのか?」


夜、父が帰宅したあと私は父の執務室を訪れエドワード様との婚約を解除してほしいと伝えた。


「いいえ、お父様。

 エドワード様が愛しているのは私ではなく妹のディアです。

 ディアもエドワード様の事を思っています。

 だから私とエドワード様の婚約を一度解消し、新たにディアとの婚約を結んでほしいのです。

 そうすればロンメル伯爵家とコルベ伯爵家の縁はそのままでしょう?」


「だがエドワードがディアを愛しているという証拠はあるのか?」


「ありますわ。

 エドワード様が当家を訪れるとき、エドワード様は私に十五本の黄色い薔薇の花束を、妹のディアには七本のピンクの薔薇の花束を贈るのです。

 お父様はこの意味をお分かりでしょう?」


「黄色い薔薇の花言葉は『友情』、十五本の薔薇の花束の花言葉は『ごめんなさい』。

ピンクの薔薇の花言葉は『可愛い人』、七本の薔薇の花束の花言葉は『密かな愛』『ずっと言えませんでしたがあなたが好きでした』だったな」


花の女神を信仰する我が国は花言葉を重んじる。


異性に贈る花の意味には気をつけないといけないのだ。


この国の貴族の常識だ。


「そうです、お父様。

 それにピンクはエドワード様の髪と瞳の色。

 ご自身の髪と瞳の色の花を贈るのは、エドワード様がディアに気のある証拠です」


自分の髪や瞳の色のアクセサリーや花束は、婚約者か恋人か伴侶にしか贈らない。


これも貴族の常識だ。


「決定的なのはエドワード様がクラウディアを「ディア」と愛称で呼び、ディアもエドワード様の事を「エド様」と愛称で呼んでいることです。

 私はエドワード様を愛称でお呼びしたことも、エドワード様に愛称で呼ばれたこともありません」


エドワード様と婚約して三年、エドワード様に愛称で呼ばれたことは一度もない。


「どうやらエドワードとディアが思い合っているのは、間違いないようだな。

 他に思う相手がいる男と結婚するのは辛かろう。

 シアとエドワードの婚約を解消し、新たにエドワードとディアの婚約を結ぶことにしよう」


「ありがとうございます、お父様」


私は父に頭を下げ、執務室をあとにした。


執務室から出たところで、ディアとばったり出くわした。


「あら、お姉様。

 お父様の執務室にいらしていたのね」


「ええ、ちょっと用があって」 


「偶然ですね、わたしもお父様に用事がありましたの」 


にっこりとほほ笑んでディアが執務室に入って行く。


清楚で可憐で無邪気なディア。ディアが幸せになれるなら私は喜んで身を引くわ。


エドワード様のことを思うと少し胸が痛むけど、ディアが幸せになるなら耐えられるわ。


ディア、エドワード様と末永く幸せにね。

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