婚約パーティ②

「何の事でしょうか?お会いするのは初めてでございますよ」


引き攣った笑みを浮かべるスフォリア公爵だが、ミューズも負けじと追撃をする。


「あら、この目をお忘れですか?リリュシーヌお母様の金色とラドンお父様の青色を引き継いだ証なのですけど、10年でお忘れになったのかしら?」


「私の娘、ミューズは病死しました。失礼ながら、あなたは孤児院出身だと聞いております。珍しい目は亡き娘に似ておりますが、他人の空似かと」

知らぬ存ぜぬで逃げ切ろうとしているようだ。


「病死?可笑しな話ですね。お父様によって魔の森に捨てられてしまいましたが、私はこうして生きております。リリュシーヌお母様が亡くなって、葬儀が終わったら義母になるジュリア様とカレン様を我が家に連れてきましたよね。あの時から私はあの家で要らない子なってしまった。

リリュシーヌお母様が亡くなってショックで笑えなくなり、私のオッドアイを気持ち悪いと詰る三人を今でも思い出せます」

両の目から静かに涙が落ちた。


淡々と言っているつもりだったが、色々な想いがこみ上げてきたようだ。


「お母様の魔力に守られた私は簡単に殺せなかった。だからあの森に打ち捨てたのでしょう?それまで愛はなくとも情はあると思っていたのに」

伏せた目は悲しみに満ち溢れている。


「そこまで私を嫌っていたのですか?」


ティタンは静かに動向を見守っていた。

辛いことを言わせているとこちらも胸が痛む。


しかしここを逃せばミューズは父と話す機会を失ってしまうのだ。


「申し訳ないが、私には身に覚えがありません」

それは愛情を感じさせない声だった。


ミューズはショックで俯いてしまった。




「お父様、こちらにいらしたのですね」

そこに聞こえたのは女性らしい高らかな声。


明るめな金髪と爽やかな青い目。ピンクのドレスはフワフワとしている。

その隣には同じく金色の髪をした青いの目の女性が立っている。その目つきは極めて鋭い。


「カレン静かになさい、殿下の御前だ」

「殿下って、ティタン様ですか?はじめましてカレンと申します。お会い出来て嬉しいです」


キャピキャピとうるさくてかなわないと、ティタンは顔を顰めた。


「戦の英雄だと聞きましたが、本当にたくましいですね。腕なんて私の腰くらいありそう」


許可もなく触れられそうになり、体をずらして避ける。


「未婚の令嬢が婚約者以外の体にみだりに触れてはいけませんよ、それに私は名前で呼ぶことを許可していません。スフォリア公爵令嬢」


やんわりと拒否をし、ミューズの腰に手を回す。

ようやくミューズが顔を上げてくれた。


「今宵は私の婚約者となるミューズを皆に知ってもらおうと開催したパーティです。

スフォリア公爵夫人、公爵令嬢、今日のパーティはお気に召しましたか?」


顔を上げたミューズの顔に、二人の目が驚きに見開く。


「なぜ、ミューズお義姉様が?!」

「どうしてここに?確かに死んだはず」

二人の反応は公爵とは全く違うものだった。


「お義姉様は病死したはずよ、なぜティタ、殿下の隣に?」

「婚約者?そんなのおかしいわ」


こちらの二人は信じられないとばかりに驚いていたが、公爵と違い、本人だと信じてくれてるようだ。


「お二人は信じてくれるのですね、ありがたい。ラドン殿は信じてくれなくてね、認めて貰えないのならば王家からの結納金や支度金は全てスフォリア公ではなくパルシファル公へと送らせて頂こう」


お金の話となり、ジュリアとカレンは目の色を変える。


「紛れもなくミューズお義姉様ですわ」

「亡くなったとばかり思っていました、こうやってまた会えるなんて…嬉しいですわ」

ティタンの目は冷たくラドンを射抜く。


「ご夫人とご令嬢はこう仰ってますが?」


ますます強くミューズを抱きかかえる。


そうでなければティタンの方が怒りでどうにかなりそうだ。




きっとこの二人はあまり実情を知らないのだろう。

暗殺を企てたのはラドンだけなのかもしれない。

「ラドン殿、こちらのミューズはスフォリア家の令嬢で間違いないですか?」

「……」

認めるつもりはないのか沈黙している。


「ラドン殿。認めないでよろしいかな」

「シグルド殿」


割って入ったのは、彼もこの状況に耐えかねたのかもしれない。


「ミューズ、すまないがもう良いだろうか。この男はきっと認めない」

「お祖父様…」

「そもそもリリュシーヌとの結婚もあまり気が進まなかった、この男はスフォリア家を自分のものにしたいが為に娘と結婚した、お前に家督を奪われないようにリリュシーヌが死ぬとお前を追い出した。それが現実だ」


殺さんばかりの憎悪、ずっと耐えてきた心底からの恨み。


「我が娘を拐かしただけではなく、ミューズにまでこんな思いをさせるだなんて。ティタン殿、もはや良かろう。情状酌量の余地はなしだ」


帯剣していたら今すぐ抜いていただろうシグルドを見てもう限界と悟る。


自分も殴り掛かりそうなので、気の短い自分たちではこういう駆け引きは無理だったのだと割り切るしかなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る