潜入③ ※残酷描写あり

防御壁を崩した後、素早くティタンは部屋に入り込み、ベッド上にて目的の人物を見つける。




驚く二人に声もなく近寄り、国王の側頭部に蹴りを入れた。


半裸の女が魔法を唱えようとこちらに手を向けるが短剣を投げて阻止する。


「あっ!」


短剣は女の華奢な肩に刺さり、悲鳴が上がった。

集中が途切れ魔力が霧散する。


その隙に大剣を振るい、国王の首を切断した。


首が落ちる事も確認せず、流れるようにして女に向かう。


思った以上に早く冷静さを取り戻したのだろう、魔法を放たれたがミューズのくれた魔石が防ぐ。


「あ、あたしの魔法が?!」


余程自信があったのだろうがミューズの事を信じるティタンは隙を見せることもない。

腹部に拳をめり込ませ、動きを止めさせる。


崩折れたところに魔封じの腕輪と足輪をつけ、動きを制限する。

更に手近にあったシーツを引き寄せてぐるぐる巻きにした。

「術師としてはミューズの方が格上だな」




あっという間の出来事にミューズは呆然としているようだ。




ティタンは痺れる手を抑え、廊下の兵士たちを部屋に引き入れる。

こちらはロープでぐるぐる巻にした後、騒がぬように猿轡を噛ませた。


少しでも発見を遅らせるためだ。


手の痺れは国王の防御壁に反発して殴りつけたを使った反動だ。

手の甲が赤く火傷のように爛れている。


「ミューズ、大丈夫か?」


声を掛けるとハッとしたようにこちらに寄ってきた。


男女の情事に驚いたのか、目の前で人の首を切った自分に嫌悪したのか。


困惑している事以外よくはわからない。


ティタンの手の傷にもようやく気づき、すぐに回復してくれた。


「すみません、こういう事に慣れてなくて」

「それが普通だ。血生臭くてすまないな」


手の感覚が少しずつ戻ってきてから国王の首を拾い、王子と同じように処置してから収納袋に入れた。


これで戦争は終わりに近づくだろう。


「うぅぅ…」

体の自由を奪われた女がこちらを睨んでくる。


「よくもよくも邪魔したわね!」

嫌悪と憎悪の声。


国王を倒された悲しみよりも怒りが強いようだ。

肩に刺さった短剣を抜いてやるかとミューズに目をやる。


「ミューズ?」

女を見る目は怒りのような悲しみのような複雑な目をしていた。

「イーノ…あなた何故こんなところに」

その口調にティタンは驚く。


まさか知り合いなのか?


「あなたミューズって呼ばれてたわね、もしかして孤児院にいたミューズかしら?

まさかあの根暗が暗殺なんて大胆な事をするなんてね」


口調からして親しいわけではなさそうだ。

イーノと呼ばれた女はこちらに目をやる。


「あなたシェスタの者?アドガルムの者?ねぇ、あなたの味方になるからこの縄と魔封じを外してくれない?そこの女よりあたしは役に立つわよ」

「はっ?」

思いもよらない言葉にティタンは後ずさった。

意味がわからない。

「あなた、強くて素敵だわ。腕も良いし度胸もある。そして暗殺に成功したのだから国に帰ったら英雄になるのよね。素晴らしいわ。

ねぇあたしも連れてって。魔力は強いし魔道具も作れるわ。体だってミューズよりもいいわよ」

肩に短剣が刺さっている為、上手く巻かれなかったシーツが乱れる。胸元の白い肌が見えるが、目線ははずさなかった。


「生憎と俺はミューズしかいらない」


胸元に目はやらず、なるべく顔の方に目をやる。


視線を外して隙を見せてはいけない。


ミューズの不安をなだめるよう、否、あの女に対する嫌悪で切りつけてしまわぬようミューズを抱き寄せて心の安定を保つ。




元よりこの側妃は国内での評判も良くなかった。


正妃を押し込め、本来離宮にいるはずの側妃が国王の自室にいるのが何よりの証拠だ。


魔力の高さを嵩に持ち、魔道具の技術を発展させたことで好き勝手やっていたようだが、

国の発展には貢献したものの人心まではついてこなかったようだ。


第二王子、第三王子は正妃を庇っていたため、危険な前線に出されたとの話もあった。


噂の真偽はティタンには判断がつかないが、しかしこの女がいい類の人間ではないことはわかった。


国王を殺されたのに義憤にも駆られずティタンにすり寄る様子や、ミューズへの侮蔑への言動、自分の立場をどう思うのか。


何れにせよ作った魔道具の数々は戦争でも多く使われていたのだから、この国を戦争に駆り立てる一端を担った可能性は非常に高い。

極刑に値するだろう。


「国に連れ帰り尋問しよう。剣を引き抜くから回復してやってくれ」

「はい」

女の目はミューズを睨みつけた。


「どうしてあんたが国に取り入ってるのよ!魔力も大したことないし、おどおどしてるのに。あんたは孤児院で引きこもってるのがお似合いなのよ!」


この女も猿轡を噛ませれば良かったなと今更ながら思った。


今更ながら手近な布で猿轡を噛ませ、目隠しもする。


嫌がっているようだが気にせずに短剣も引き抜いた。

くぐもった声を上げるがすぐにミューズが回復魔法をかける。


グリフォンを呼び寄せるとミューズは転移魔法を用いてキール達の陣営へと戻った。


一度行った場所なら戻れるのだ。



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