第8話 休憩中は忙しい

 ペカリンの喜ぶ顔を想像してわくわくが止まらない。

そして、茂みの中、ついにペカリンと再会した。サバダバも一緒だ。


「ペカリン、サバダバも。なんだか久しぶりだなぁ!」

 泣けてくる。涙の再会だ。


「何、感傷に浸ってるんですか? 遅いですよ、ご主人様!」

「バウ、バウッ!」

 そう言って馬車から顔を出したのはヘレンとフローバー。

着替え終わってるのは驚きだ!だが、それ以上に驚いたのは、馬車……。

辛うじて屋根があるとはいえ、どう見ても荷馬車だ。

とても人を乗せて走る馬車には思えない!


「早く乗ってください、ご主人様!」

「あっ、あぁ。分かってるって……」

 言いながら心の整理をした。

そういえば、我が家の家計は火の車。贅沢は敵だった。泣けてくる。


 落ち着いて馬車のステップに右足をかける。

今度は、エミーが馬車の中から僕を呼ぶ。


「あー、トールご主人様は御者台です」

 えっ? 御者台って、僕が馬車を御すの……。


「シャ、シャルは……」

「何言ってるんですか。昼まで休憩なしなんですからシャル先輩には無理です」

 ごもっともだ。シャルは朝が誰よりも早い。代わりに昼寝をするのが日課だ。

そのせいで僕は危うくシャルに……思い出したくない過去だ。

申し訳なさそうにするシャルに、その場では明るく振る舞う。


「ご主人様、申し訳ございません。お昼寝、お先にいただきます」

「いっ、いいんだよ。あははははっ……」

 御者台が涙に濡れたのは言うまでもない……。


 チャッチャの馬車を先頭に隊列を組んで出発した。




 馬車はぐんぐん進み、ある小川の浅瀬沿いの野原で昼休憩となった。

そこで繰り広げられたのは、ちょっと異様な光景だった。

僕以外、男子がいない。護衛の人員に至るまで、全員女子だ!


 チャッチャの馬車に乗っていたのは、近衛騎馬隊の面々。

サイン・コサイン・タンジェント・コタンジェントの4人。

西の館の警備はどうなっているんだ?


「しょんにゃもにょは、全部、部下に任しぇていりゅ」

 チャッチャは既によだれモードだ。

その部下がここにいるから心配なのに。




 エーヨの馬車は静か。

猫谷組で乗っているのはアースの他はイースとエース。

2人は僕やアースと同い歳の職人で、基本無口だ。

まったりのんびりするにはちょうどいい。


「はぁーっ……。あなたはまた読書の邪魔をしにきたの!」

「いや……そういうわけでは……ない……んだ……」

 ただし、僕以外。




 ハーツの馬車にはハーツのメイドのダイアナと……大問題の猊下御一行様!


「あっ、あれれ? 貴女は女神様じゃないですか!」

 安全祈願のとき、猊下とバチバチにやり合っていた女神リサそっくり。


「違いますよ。私は……ネンドーです。ネンドー!」

 何、その微妙な間は? 自分の名前って、考えてから言う? 粘土?

それに、横にいる妙に美しい人も怪しい……。


「わっ、私は……そうそう、ロイドー? 2人合わせてネンドーロイドーなんて」

 自分から名乗っといて、考えてる。ネンドーロイドーって何?

察するに女神リサの友達女神シャノーレ様じゃないのか?


「やっぱりお2人は女神様、ですよねぇーっ?」

「ちっ、違う違う。私たちって、そんなにきれい? 参ったなぁーっ!」

「そうよそうよ。ロイドーの言う通りよ。あっ、それ私だったわ」

 ますます怪しい。手をうちわのように仰ぐ仕草も、怪しい。

ネンドーの手から、その度に突風が吹き荒れるのも、怪しい。

こうなったらブラフ。乗ってくるか?


「お2人とも美人過ぎて、世界一の美女神のアポキュ様とツクミア様かと……」

「……冗談じゃないわよ。何であの2人が世界一の美女神、なのよ!」

「そうよ。あんな連中、毛の抜け毛虫じゃないの。ムシよ、ムーシッ!」


「あははははっ。女神級に美しいって言いたかっただけなんですけど」

「そんなの、間違ってるわ。褒めるなら、女神を見て言いなさいよ!」

「そうよ。女神の褒め言葉としては使えないでしょう」

 ボロが出過ぎだ!


「お2人、いや、御2柱は女神、なんですね?」

「ギャン!」

「グッフ!」

 やっぱり女神だった。




 休憩中といっても、やるべきことはたくさんある。

馬の世話、食事の支度と食事そのものだ。とても忙しい。

食材は穀物と野菜をいくらか積んであるが、ないものは現地調達。

それが旅の醍醐味でもある。


 チャッチャたちは警備の傍らに馬の世話をしている。

そこにシャルも合流し、和気藹々と語らっているのが微笑ましい。

僕もペカリンとサバダバを水辺へと連れて行くことにした。


「よかったわ。力持ちのペカリンとサバダバがいてくれて!」

「キュアの言う通り。ただぼーっとしてる男とは大違いね!」

 と、気になることを言うのがキュア・ミア。聞き捨てならない!


「僕だってぼーっとはしていないよ。2頭の世話に忙しいんだ」

「分からないんですか? ついでに水を運ぶのを手伝ってほしいんですよ」

「先にお湯を沸かしておきたいの。ヘレンが火を起こしているから」

 納得だ。ペカリンとサバダバにバケツを括り付け、改めて水辺に向かう。


 その途中、アイラが採集に森へ入るのが見えた。

1人では危ないけど、フローバーと近衞騎馬隊の数名も一緒だから安心だ。

少しでも多くのレア食材を見つけてくれればいいな。

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