第3話

 可哀相に彼はこの宇宙の仕組みも、自分がどうしてこの世界に転生したのかも、何も知らないのだ。


 この場所も含め、ひとつの宇宙はこの1ギガの、つまりおよそ十億の量子ビットからなるユニット(三千大千世界)の、たったひとつの量子ビットに過ぎない。

 

 量子ビットの中はホトケと呼ばれる担当によって観察されるまでは大小様々な処理系がお互いに影響を与えあって蠢いている。犬も人間も数も、あらゆる有形無形の存在から概念まですべてが処理系だ。中では互いに激しく影響し、近くの宇宙とも若干の影響を及ぼしながら、やがて値が確定するときまで続く。

 人間のような大規模な処理系は途中で他の量子ビットに移される。記憶を残したままそれが起きれば転生となる。


 ホトケの望みに近いクオリアを生み出す、ホトケの意向に有益であるような処理系は一段階上の処理系として、広範囲の宇宙たちに対して横断的になる。これが解脱だが滅多にあることではない。


 逆に悪影響が酷い処理系は使わない量子ビットに移して潰しておく。これが地獄行き。


 作り出した影響が自身も周囲へも良好で値の確定まで好条件を維持する為に量子ビットに移される。これが天界や極楽への往生。


 また、地獄行き程でもないが、いまいちな処理系を改善されにくい不幸なまま置いておく。これが餓鬼道。


 もういちど高度な知的処理系となって解脱を目指す人道。


 適度に分割され、あちこちの量子ビットに分配される畜生道。


 最後にもうひとつ。修羅道というものがある。

 天に迎えるには危険過ぎ、地獄に入れとく程でもない。人道、餓鬼道では不安定過ぎる。抱えた矛盾の多い処理系を絶え間ない戦いの中に置く修羅の道。


 数の世界はこの修羅。

 戦い続ける宿命を背負う世界なのであって、平和など訪れるはずがないのだ。

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