第35話 収入を測る物差し

 うろうろして建物も見たいが、なにぶんHP(体力)も残りわずか。やはり睡眠不足で山登りをしたのが影響しているようだ。現在17時過ぎ。ちょっと早いが、キャンディ以降ろくなものを食べていなかったから空腹もはっきりと覚えている。さっさと食事場所を探そうと決めた。

 ガイドブックに書かれていたダッチホスピタルに、うまい店が入っているとのことだったので、そこに向かうことにした。

 信号待ちをしていると、仕事帰りだろうか、スーツ姿の男性なども見受けられた。コロンボの街だけ、人々が着ている服が違うなと感じた。足元を見ても、サンダルじゃなくて革靴の人もちらほらいた。

 この国の人は足元を見るとだいたい収入が見えてくる。


 フォート中心部に位置しているダッチホスピタル。この建物は、オランダ統治時代に建てられた病院を、可能な限り手を加えず改装したもので、コロンボの新名所として観光客人気があると言う。確かに敷地内を眺めて見ても観光客と駐在員の家族らしい人しかいない。入っている飲食店や雑貨店、お土産屋を覗いて見てもどこも清潔でオシャレでスリランカらしさのかけらも見当たらない。まるでリゾート地のショッピングモールだなと言う印象を持った。

 現地の人はどこにもおらず、いたとしても従業員ばかりだった。つまりそういう価格帯の店が集結しているってことだ。

 今夜は「コロンボコンフォートカフェ」で夕飯を取ることにした。

店内には、スリランカらしさを微塵も感じさせない、近未来感が半端ないインテリアがいっぱい散りばめられていた。めちゃくちゃお客様を選んでいる感じが遠慮なしに伝わってくる。エアコンも馬鹿みたいに効いていて気持ちよい。

 店員さんの案内で席をつく。疲れているが、ともかく腹が減っている。

 明日はゴールの日帰りツアーが待っている。精力を付けておかなければならない。肉を食べるぞ、肉。ステーキが掲載されているページを開く。

 店員さんのお勧めはペッパーステーキ。素直にそれをオーダーする。ドリンクは?と聞かれ、迷わず、好物のスイカジュースをオーダー。山登る前に肉食えよ!と、自分を突っ込みながら、大人しく肉を待つ。

 数分で大きなステーキが目の前に現れる、腹減っていたというのもあるけど、この数日大したものを食べていなかったから、瞬時にむしゃぶりついた。

うまい。期待以上の味だ。旅行中は疲れから味覚の偏差値が随分と下がってしまうと言うが、そこを差し引いたとしても、評価に値する。夢中で食べた。

 唯一欠点を上げるとするなら、焼き方かもしれない。私はミディアムでオーダーしたが、しっかりと火が通っていて堅かった。あまりこちらの国の人はミディアムで食べないのかもしれない。

 スイカジュースは外れのない味。一人、アダムスピーク登頂ご苦労さん会をしている気分にあり、スイカジュースで、ほろ酔い加減になってしまった。

 清算はテーブル会計。レシートを見て、一気に酔いがさめる。代金はサービス料や税金が含まれて、3775.8ルピー。かなり奮発してしまった。


 食後はまっすぐ宿へ戻った。女1人旅と言うのもあるが、どこの国に行っても19時以降は絶対に外に出ないと言うことを実践している。だからこそ、今までいろんな国を旅してきたけど、大きなトラブルに遭わなかったのだろう。こういう心がけは大事である。

 早く帰宅したから、まだ誰も使用していないシャワールームに入れた。宿のシャワールームはトイレと一体型で、シャワーブースは3つあった。

 もちろんトイレだけのブースもあったから、他人がシャワーを利用しているときはトイレが使用できないと言うことはなかった。

 さっさと汗を流し、ロビーでドライヤーを済ます。そのあとクリーニングサービスをこの宿は行っていたので、ここ数日の汚れ物を洗濯してもらうことにした。洗濯物をフロントに持っていき、900ルピーを支払う。7kgまでこの値段でやってくれる。

「朝までに仕上げておくよ!仕上がったら、ベッドの前に置いておくよ。」

言ってくれたので安心して床につくことができた。

この夜は、すぐに意識をなくした。

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