第18話 仏陀とデートできる公園

 自転車を漕ぐこと30分。遺跡群の最北端に到着する。木陰でしばし体を冷やしてからから、遺跡内へ入る。最初の見学地は、ティワンカ・ピリマゲ寺院(北院)。13世紀の壁画が残る建物であり、室内は撮影禁止だ。だから外観だけ記念撮影をしている人が多かった。室内の修復工事は終えられたみたいだけど、外観はまだ修復中だった。

 壁画は釈迦の修行の様子や仏教の教えが描かれている。もちろん、裸足で見学する。中は薄暗くて涼しかった。このひんやり感が、たまらなくありがたかった。

 さっさと2か所目に向かおう。なるべく遺跡巡りは午前中で終わらせたい。道は舗装されているところと、そうじゃないところがある。奥に行くに従い、舗装されてない感じになる。観光客は私のような自転車組ばかりでなく、トゥクトゥクチャーター組、ツアー組と大体まんべんなく見かけた。

 2か所目ハスの池。美しい花の形をした沐浴場でかつてはお坊さん専用だったらしい。カメラにきちんとおさまらない、大胆な大きさ。結構な大浴場だ。今も昔も坊さんはこの国では位が高いのだな。

 撮影後は牛と共に移動だ。柔らかい時間がこの地に流れている。タイミングが合わなくて撮影できなかったが、孔雀も見かけた。

 ポロンナルワは修復中の遺跡も多くて、見学できない遺跡もある。ハスの池とティワンカ・ピリマゲ寺院がちょっと中心部にある遺跡群から離れているが、あとは固まって保存されている。名前がついていない、発掘途中の遺跡群も、突然目の前に現れたりする。結構、観光客の皆さんは、そういうところで休憩していた。

 3か所目はガル・ヴィハーラ。ポロンナルワ遺跡の大傑作である四石像が拝める。涅槃像、立像などあるけど、石の風合いからか優しい温かい心が伝わってくる石像ばかりが並ぶ。しばし手を合わせる。この立像は高さ4.6mを誇る。

 なかなかの深い表情。現在修復中でそばには近づけないが、迫力は十分に伝わってくる。

 4か所目キリ・ヴィハーラ、5か所目、ランカティラカと順調に見学し、6か所目、ランコトゥ・ヴィハーラへ向かった。

 ポロンナルワ随一の大きさを誇るダーガバ。ダーガバとはスリランカにおける、仏陀の遺骨(仏舎利)をまつる仏塔のことを指す。12世紀に建てられたもので、高さ55m、直径55mとポロンナルワ随一の大きさだ。

 しばしここで休憩をとることにした。1つ1つの遺跡は大きくないから見学時間はそうとられないのだが、何ぶん暑い。徐々に太陽が調子に乗ってきている様子が手に取るようにわかる。スマートフォンの天気アプリで気温を調べたら38度。見るんじゃなかった。さっさと鞄にしまう。

 木陰に座り、持ってきたフルーツを貪り食い水分を摂る。この瞬間が一番幸せだった。目の前に悠久の歴史を刻んできた古代遺跡があり、彼らと会話しながらの食事。

心が満たされる贅沢な瞬間だ。しばらく座り込む。

 私がこうしていたら、真似をして座り込んでお菓子を食べだす観光客が現れだして、おかしかった。私は意外に宣伝効果があるのかもしれない。

 食べていてもお咎めはない。ちゃんと各遺跡の入り口付近にゴミ箱も設置されている。遺跡エリアは大変きれいに整備されていて、感じが良い。

 20分ほど休憩した後、ぐるっと一周を回った。

 この遺跡はアヌラタブラのサーヤ大塔をモデルにして造られた。どうりで形

が似ているはずだ。その昔は、てっぺんの尖塔の部分が金で覆われていたという。しばしイメージを膨らませる。

 この遺跡の鑑賞後は15分ほど走って、遺跡中心部へ戻ってくる。この中心部には大きな売店があった。

 この遺跡公園内には、小さな休憩所・売店が大体自転車走行で5~8分おきぐらいに置かれている。その中でも、中心部にある売店はこの国には珍しく営業意欲もあり、かなり声かけと手招きがある。私が手招きに負けて吸い込まれるように訪れたのは、ポロンナルワ遺跡の中心的存在であるクワドラングルの目の前にあった休憩所だった。持ってきたフルーツだけじゃ足りなかったから、店員さんが勧める、モンキーバナナとロティと言う食べ物をオーダーした。

 このロティと言うのは小麦粉とココナッツのすり身を合わせて焼いて作られたものである。町飯では怖い思い出もあるのでとりあえず焼き立てをいただいた。

 地元の方はチリソースをつけて食べていた。私は辛いのが苦手なのでそのまま戴く。うん。大して味がしない。結局バナナをくるんでクレープのようにして食べた。  

 2つで80ルピー。ちなみに売店で売っているボトルジュースは1本、150ルピーもするが、よく氷で冷やしてくれていた。

 食後は、売店の目の前にあった、ポロンナルワ遺跡群の中心的存在であるクワドラングルに向かった。クワドラングルとは四方形と言う意味である。その通り、四方形の城壁に囲まれているこの中には、11の遺跡が収められている。形をとどめていないものばかりなので、ガイドブック地球の歩き方が本当に役に立った。

 ここは無駄に広かった。でもこの時点で、私のHP(ヒットポイント:体力)は残り30%ぐらいだったから、駆け足の見学になってしまった。正午前ではあったが、これから一番暑い時間に突入していく。自分がジュー、ジューと音を立てて焼けていくのがよく分かり、本当にしんどい。

 今にも崩壊しそうなサトゥマハル・プラサーダは、入ってすぐに目に付く建物だ。この塔はタイから来た剣俶氏が設計したと言われている。確かにあちらにありそうな建築物だ。残念ながら、柱しか残っていない建物も多い。アタダーゲという仏歯寺跡もあった。しかし柱だけ見ても、正直、何にも分からない。ポロンナルワ遺跡群の中には、こんな建物ゴロゴロある。地球の歩き方の解説を眺めながら一生懸命イメージを膨らますのだけど、限界がある。

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