第4話  スリランカのポンコツバス

【3日目、ダンブッラ。英語を学びなおそうとしきりに反省する。】            


「ジャパニーズガール!クルネーガラ、クルネーガラ!」

 ネゴンボのゲストハウスで浅い眠りしか得られなかった私は、相当深い眠りについていたらしい。車掌に叩き起こされたとき、ダンブッラまでの中継地点であるクルネーガラのバスターミナルに到着していた。

 軽く謝罪しバスを降りる。時刻は10時を回っていた。容赦なく砂埃が襲ってくる。  

 手で口元を覆いながら、次なる目的地であるダンブッラ行きのバスを探した。 

 クルネーガラのバスターミナルでは私がスーツケースをガラガラ引いてバスを見て回っていたら、バスターミナルの職員らしき人が、どこまで行くのか?と声をかけて来て、ダンブッラ行きのブルーバスを案内してくれた。本当は先ほどと同じワンボックスのインナーシティバスを希望していたが、この時間帯はないと言う。   

 スリランカのように時刻表のない国は、今あるバスに乗車しなければ前に進めない。次、いつバスが来るか分からないからだ。

 まだ乗客は誰もおらず、私は迷わず一番前の席に腰を下ろした。どんな国を旅するときでも、バス移動の際は必ず先頭に着席してきた。運転手に自身の姿を覚えてもらわなければならないからだ。

 着席して10分~20分経っても一向にバスは走り出す気配を見せなかった。ある程度集客があってから走り出すことは発展途上国バスの特徴ではあるが、この時は30分以上待たされた。待っている間、ひっきりなし物売りの兄ちゃんが乗り込んできた。お土産やパリップワデー(レンズ豆と青唐辛子の揚げ物)などを売りに来る。いつ調理したものか分からなかったから怖くて口にできなかったが、現地の人はよく購入されていた。でもしつこく勧誘する風でもなく、淡々と『バレバレバレバレ』と商品名を連呼して車内をうろつくだけだった。

 10時半過ぎ、ようやくバスはダンブッラに向けて走り出した。ドア、窓無しのブルーバスは走り出してすぐ車内に心地よい風を送り込んできてくれた。走り出して早々、車掌がバス代を徴収しに回ってきた。90ルピーで、ちゃんとレシートもくれた。車内では、スリランカの人気歌手なのか、ヒット曲なのかさっぱり分からないが、ライブ映像を延々と流していた。乗客は相変らず物静かで、皆映像に釘付けだった。

 スリランカ世界遺産・文化三角地帯(スリランカのほぼ中央に位置する古代遺跡が集中するエリアのこと)の拠点となる街、ダンブッラに到着したのは、お昼過ぎだった。


 ダンブッラだよ、と親切に車掌が声をかけてくれたことはありがたかったものの、降ろされたのは適当に舗装されたバス停も何もない電気屋さんの前だったので少々面食らった。またもや砂埃が容赦なく私を襲ってくる。一瞬にして鼻の穴は真っ黒だ。 

 私が旅行者だと分かると、即トゥクトゥクドライバーが群がってくる。グーグルマップで検索をかけてみて、予約を入れてある宿がここから車で10分はかかるところだと判明。スマートフォンで宿の名前を見せて、英語が理解できたトゥクトゥクドライバーに依頼した。宿まで200ルピーで交渉成立。


 のどかな田園地帯を爆走すること数分。宿に到着した。玄関は開けっ放しで人がいる気配が全くしない。ドライバーが心配して、裏にある民家へ声をかけに行ってくれた。玄関先に置かれていた手作り風のソファーに腰をかけていると、大きなおなかを抱えた女性が、柔らかい笑みを称えてやってきた。

 あまり英語は得意ではなさそう。私も人のことは言えない。予約してある旨を伝え、その証拠となるバウチャーを見せると、奥の部屋からキーを持ってきてくれ、2階の部屋へ案内してくれた。

 お部屋は大変きれいだった。この宿も完成してまだ日が経っていない感じだ。ドアを開けた途端、新築独特の臭いが鼻を何度もノックしてきた。一番面白いなぁと思ったのはバスルーム。もちろん浴槽はないが、シャワーが滝なのだ。ぼとっ、ぼとっと、お湯が塊のように落ちてくる。これが体や頭に当たると、気持ちいのなんのって。滞在中、これが一番気に入った。

 荷物を軽く整理し、1階へ降りた。女性は庭に水を撒いていた。ランチを外で食べた後、ローズクオーツマウンテンだけ観光してくると、ガイドブックを見せながら説明をする。分かったような、分からないような微妙な表情を浮かべていたが、とりあえず行ってきます、とジェスチャーで伝え、宿を出た。





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