第2話  愛すべき中国東方航空

【1日目~2日目、旅立ち。片っ端からカオスな洗礼を受けていく。】 


 日本を出発したのは2日前の12月28日。師走の小松空港は中国人の団体で混雑していた。皆、13時30分発の上海行で故郷へ帰るらしい。

 地方都市に住んでいる者にとって、地方空港から海外へ飛び立てることは本当にありがたいことである。それがたとえ、中国東方航空であってもだ。

 大阪や東京まで一旦出てから海外へ飛び立つとなると、国内移動費用が別途必要となる。今回のスリランカは小松空港発、上海経由スリランカで航空券をゲットすることができた。すべて中国東方航空で手配できたからか、年末年始で58,370円と言う破格の値段だった。

 しかし安いゆえに、ほころびも見える。まず定刻に飛ばない。私は航空会社にこだわらず安く海外へ飛ぶことを第一に考えているので、いつの間にか中国東方航空のヘビーユーザーになっていたのだが、この航空会社を利用して数年、一度も定刻に飛んだ記憶がない。いつも30分から1時間の遅れが生じている。

 中国東方航空を利用する客は皆この現状に慣れているのか、文句をスタッフに垂れている姿は今まで見たことがない。安いから仕方がない、そう自分に言い聞かせているのだろう。

 機内もなかなかのポンコツである。過去に小松空港から上海経由でカンボジア・シェムリアップへ飛んだ時、トイレのドアが壊れていて閉まらず、片足でドアを押さえながら用を足したこともあった。おかげでかなり腹筋が鍛えられた。この時の航空代金は、往復で48,000円。文句は言えない。

 基本的にモニターもないし、機内食は餌である。でも私は中国東方航空を利用する。価格の安さに勝るものはない。例え機内食で白飯とグリンピースしか提供されなくてもだ。サービスなんかどうでも良いと考えている日本人バックパッカーは私以外にも多く存在し、今までもトランジット先の上海で遅延している飛行機に文句を垂れながら、旅先の情報を何度も交わしてきた。

 今回は乗り継ぎ時間がうまくかみ合わず、上海で一泊せざるを得なくなった。中国東方航空では座席のクラスによるが、上海で一泊トランジットになる場合、浦東国際空港で無料宿泊券が付いてくる。しかし私の手配した航空券は、合計4回搭乗する中で1回格安航空券を象徴するTランクの座席があったため、お食事クーポンになってしまった。日本円で約1000円程度である。きっとスカイスキャナーで格安航空券を購入しているうちは、無料宿泊券にありつけそうもないだろう。

 本当は久しぶりに軽く上海観光をしたかったのだが、遅延で上海到着が17時を過ぎていたから面倒くさくなり、入国後すぐにホテルにチェックインした。

 

 トランジットの際、いつも使用しているホテルは上海浦東空港内にある大衆空港ホテルである。第1ターミナル、第2ターミナルの中間地点に位置しており、非常に便利なホテルだ。このホテル代1泊分を足しても、関西や成田発着にしてスリランカへ旅立つ料金よりは半額近く安くついた。

 中国にある大抵のホテルはデポジット(保証金)を徴収する。

 私は毎度この補償金の支払いをクレジットカードで行っていたのだが、この時、スキミング(個人情報抜出)をされたことを後に知った。帰国してから1か月後、保証金の支払いをしたカード会社から、2週間前、私が大量のバトルカードゲームを中国で購入していたことになっているのだが、どこで弊社のクレジットカードを使用したか分からないか、と電話が入ったのだ。このカード会社のクレジットカードを使用したのは、トランジットホテルだけだった。

 私は支払い証明書と保証金を支払った時にもらったレシートのコピーをすぐさまカード会社へ送り、引き落としを止めてもらった。

 トランジットのためだけに滞在することが多い中国。デポジットのためだけに少額の「元」を持ち歩く気になれないが、致し方ないのかと思い始めている。

 いろいろ問題を含んだホテルではあるが室内は清潔だし、無料Wi-Fiもあるし、フードコートも歩いて二分のところにある。

 部屋に入り、荷物の整理をした後すぐに夕飯の調達に出かけた。調達といって中国東方航空からもらったお食事券を使用するため空港内に出かけるだけである。お食事券の裏には使用できる施設の一覧がある。私は部屋でゆっくりと食べたかったからケンタッキーで購入することにした。世界的にチェーン展開しているお店は、その国オリジナルの商品もラインナップされている。日本にないのは手羽先だろうか。お食事クーポンを提示し、写真の指差しと片言の英単語を駆使し、オリジナルチキン2個、手羽先2本、エッグタルト3個、コーラ一杯を購入した。1人でこんなに食べるのか?と言う表情をおくびにも出さず、年増の店員は淡々と袋詰めをしてくれ、一言も発することなく、商品を渡してくれた。どこの国も労働力不足なのだろうか。空港内では結構な年季の入った労働層の方ばかりウロウロしていた。

 オリジナル商品である手羽先は、照り焼き風味で屋台の味だなと思ったが、オリジナルチキンは日本と同じ味付けだった。自分で作成したスリランカの旅程表を再度チェックしながら、私は片っ端から食料を胃袋へ詰めていった。

 ケンタッキーの割には無駄にうまいエッグタルトを頬張りながら、何を話しているのか分からない中国の番組を見る。尖閣諸島が映し出されているから、日本の悪口でも喋り倒しているのだろう。

 すべてをきれいに平らげた後、さっさとシャワーを浴び、この日はすぐに布団にもぐりこんだ。

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