06.結実 2

「よく来たな」

 ココリの世話を任されているフェロルが出迎えてくれた。ナートたちをつれて訪れることは、事前に伝えてあった。今はまだ手が掛かる時期ではないので、今日来ているのはフェロルとその息子だけだという。リアノスより若い息子は、畑の奥の方で剪定作業をしていた。

「お邪魔します、フェロルさん。うるさくてすみません」

「構わないよ。収穫期でもないのににぎやかになるなんて滅多にないから、むしろ明るくなっていい」

 フェロルは挨拶する子供たちに笑顔で応え、木が今どういう状態かを、分かりやすいように教える。

「ここに、白い花が咲いていたんだ。そして今は、実の赤ちゃんがいる」

 と、葉と葉の間に埋もれている小さな小さなココリの実を指さす。

 ココリの木は、高いものは大人の背丈の三倍ほどもある。小さくても、子供の身長では一番下の枝にも手は届かない。リアノスが順番に肩車して、子供たちに見せることになった。

「つぎ、ぼくだよ。はやくぅ」

「まって、まだ見てるの」

 足下では順番を待つ子供がリアノスのズボンの裾を掴み、肩に乗せているキーヒャは、リアノスの髪をしっかりと掴んでいた。時々強く引っ張られるので痛い。

「キーヒャ、そろそろ交代だ」

「えー、まだ見たいー」

「後でまた肩車してやるから、今は交代」

 キーヒャの前の子供にも、後でまた肩車をすると約束している。早くとせかす子供も、また後で肩車しないといけないだろう。

 子供たちが満足するまでさんざん肩車をしたあと、ナートを担いでいなかったことに気が付いた。彼はおおむねリアノスの周辺にいたが、担がれる子供たちやココリの木を見上げているだけだった。

「ナートは近くで見なくていいのか?」

「僕も、いいのか?」

「もちろんだ」

 正直なところ、肩や腰は疲れているしなんだか痛いが、ナート一人くらいならまだ担げる。

 今回連れてきた子供たちの中で、アミシャを除けばナートが一番背が高い。肩に担げば一番重いが、一番間近でココリの小さな実を見られたのはナートだ。頭上にあるその表情は見えなかったが、楽しんでいる様子は声から分かった。

 ココリの木を存分に見た後は、フェロルたちと共に昼ご飯だ。

 畑の端に木々が生えていないちょっとした空間があり、そこで持ってきた弁当を広げた。ナートが大事に抱えてきた甲斐あって、弁当はほとんど形が崩れていなかった。リアノスが今朝用意したのは、豆と菜っ葉の炒め物と、練った麦粉を薄くのばして焼いたものだ。他に、アミシャの母親が作った野菜の漬け物と、ウルスタが用意した果物の蜂蜜付けもあって、豪勢だ。フェロルとその息子は自分たちの分を持ってきているが、リアノスたちの昼ご飯をお裾分けした。

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