(四) 人魚姫

 次の日の朝、結局俺は寝坊した。またその次の日も次の日も、結局俺は寝坊をし続けた。そしてそのまま一年五年十年と月日が流れて、今に至る。結局あれ以来、俺が叔父さんと釣りに出かけることはなかった。人魚のこと、鱗のこと、ハヤブサのことも、話題にすらしなかった。ただなんとなく、忘れていた。


令和四年の夏は、コロナが終わるのか終わらないのかはっきりしないまま、天気も晴れか雨かはっきりしないままの、あやふやな夏になりそうだ。特別することもないし、今日も明日もこの調子で、去年と変わらず、ごろごろすることになるんだろう。


 そんなある日、俺は実家からの一報をきっかけに、この人魚の話を思い出すことになる。それは、叔父さんが再婚すると言う知らせだ。お相手は何周りも年下の、いいところのお嬢さん。写真も見たが、目が大きく、おでこが綺麗で、髪は長く黒く、少しパーマがかかっていて、とても華奢な、絵に描いたような美女だった。例えるならばまさしくそう......人魚姫。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る