100日目 夏祭り

 7月17日、夏祭り当日、夏祭り会場の近くの駅で修平はヒロと待ち合わせをしていた。約束の時間を過ぎても、ヒロは姿を見せなかった。

 あのヒロが待ち合わせに遅刻するとは珍しい、そう思いながら修平はヒロに連絡してみようとスマホを取り出したときに、浴衣姿のヒロが改札をぬけてこちらに向かってくるのがみえた。

「修ちゃん、ごめん。浴衣が思った以上に歩きにくくて、電車に乗り遅れちゃった。」

 花火柄の浴衣を着たヒロが、申し訳なさそうな顔をしている。

「浴衣に下駄だと歩きづらいから仕方ないよ。それより、何かあったかと思って心配したよ。」

「心配してくれて、ありがとう。でも、修ちゃんも変わったね。昔だったら、修ちゃんそんなこと言わなかったでしょ。」

「まあな。美織と待ち合わせした時に美織が遅刻したことがあってそれを責めたら、『女の子はいろいろと準備があるの。それに何かあったのかなって心配しないの?』って怒られたことがあったからね。」

「美織ちゃんらしいね。」

 慣れない下駄で歩く速度が遅くなっているヒロに合わせてながら、夏祭り会場の公園まで歩き始めた。


 公園に近づくにつれ、混雑するようになってきた。ヒロとはぐれないように、修平がそっとヒロの手を取った。ヒロの横顔を見ると、ちょっと頬が赤くなった。

 公園内に入ると、たこ焼きや綿菓子など夏祭りらしい屋台が並んでいた。

「何食べようかな?チョコバナナとフランクフルトどっちにしようかな?」

「ヒロ、何か好みが偏ってないか?」

「そう、やっぱりタコ焼きにしようっと。修ちゃん待ってて。」

 そういってヒロはたこ焼きを買うために、屋台の方へと歩いて行った。髪型をアップにまとめたヒロの後ろ姿に、修平は色気を感じてしまった。

 

 アツアツのたこ焼きを二人でシェアして食べ終わった後、再び公園内を二人並んで歩いた。

「修ちゃん、射的があるよ、やってみよ。」

「たこ焼きを奢ってもらったから、ここは俺がだすよ。」

 修平はお金をはらって、射的用の銃とコルク玉を5個を受け取った。早速、打ってみたがどこにも当たらず明後日の方向にコルクが飛んで行った。

「思ったより下に行くな。ヒロもやってみて。」

 修平はヒロに銃を渡した。ヒロはできるだけ前のめりで手を伸ばし、景品との距離を縮めて打った。ヒロの打ったコルクは、景品のアニメキャラクターの人形に当たった。

「やった!」

 ヒロが無邪気に喜んだ。そんな笑顔のヒロをみていると、修平も嬉しくなってきた。


「ヒロ、疲れたろ。ちょっと休憩しようか?」

 一通り屋台を見て回った後、慣れない下駄で歩いて疲れているヒロを修平は気遣って、公園のベンチで休憩することにした。

「修ちゃん、優しいね。」

「まあ、これも美織の受け売りだけどな。」

 買ってきたラムネを飲みながら、修平は覚悟を決めた。

「ヒロ、返事が遅くなってすまないが、好きだ。俺と付き合ってくれ。」

「嬉しいけど、修ちゃんはそれでいいの?」

「今までヒロが男だということで、惚れてはいけないと思っていた。けど、好きになるのに男も女も関係ないってことに気づいた。」

「ひょっとして、それも美織ちゃんに言われた?」

 ヒロはいつの間にか涙目になっていた。

「そうだけど、今日改めて一緒にいたいのは誰かってことが分かった。ヒロの笑顔を一番近くで見ていたい。」

「私こんな格好してるけど、男だよ。男と付き合って、変な目で見られても大丈夫?」

 修平はその質問に答える代わりに、ヒロの体を抱きしめ唇を重ねた。

「ヒロと一緒にいれるなら、他の誰かにどう思われてもいい。ヒロもそうだろ。俺のために女の子になって、みんなから変な目で見られることもあったよな。だから俺も気にしないことにする。」

「修ちゃん、ありがとう。」

 二人が抱き合ったとき、二人を祝福するかのように花火が上がった。





 

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