54日目 朝の勉強会

 6月1日、修平は今日から夏服で、登校することにした。半袖のシャツに袖を通すと、涼し気で夏が近づいてきた実感がわいてくる。

 駅に着くと、ヒロも夏服を着ていた。女子の夏服はセーラタイプのシャツで、冬服とは違った魅力がある。

「修ちゃん、おはよう。今日も寝坊せずにこれたね。」

 昨日から朝の勉強するために、今までよりも30分早く学校に着くことになり、その分早起きする必要があり、少し眠い。

「おはよう。頑張って早起きしたよ。ヒロも夏服にしたんだ。」

「こっちの方が、涼しいからね。ところで修ちゃん、昨日教えたことちゃんと復習した?」

「してきたよ。今日の数学もやったし、テスト前でもないのにこんなに勉強したの初めてだよ。」

 昨日はヒロに英語を教えてもらい、今日は美織に数学を教えてもらう予定となっている。

 

 修平は学校に着くと数学の参考書とノートをもって、美織のいる隣の教室へと移動した。美織は修平の教室にくると言っていたが、修平は美織に教えてもらっている姿を片桐さんに見られたくないので、申し出を断って修平が美織の教室に行くことにした。

「坂下さん、おはよ。」

「大森君、約束通り早起きしたみたいだね。それで、ちゃんと問題解いてきた?」

「頑張って解いたけど・・・」

 修平は解いてきたノートを美織に見せた。美織は修平のノートを一目見て、

「大森君、ノートが汚すぎ。これじゃ、数学成績悪いのもうなずける。」

 解答以前に、ノートのことを指摘されてしまった。美織は自分のノートを見せながら、

「まず、ノートは半分で折って、左半分にしか数式は書かない。あと、計算過程を横に書いていくんじゃなくて、「=」の位置を揃えて、1行ごとに書いていって。」

「右半分には、何を書くんだよ。」

「『この公式をつかう』とか、『対数の底を変換する』とか一言メモみたいなのを書いておくと、あとから理解しやすくなるよ。」

 たしかに美織のノートをみると、思考の流れがわかりやすく感じる。


 美織と勉強していると、美織のクラスの生徒が教室に入ってきた。隣のクラスの男子に勉強を教えている美織に、

「美織、おっはよ~。朝から、彼氏と勉強?」

「そうだよ。成績が悪い彼氏持つと苦労するよ。」

 彼氏扱いされているが、この状態で否定しても説得力はないので、修平は黙っておくことにした。

 そんな感じで、登校してきたクラスメイトみんなに「美織の彼氏」という形で紹介されてしまった。居心地が悪く、勉強もひと段落したので、

「じゃ、坂下さん、教室に戻るね。」

「また明後日するから、それまでにこのページの問題解いておいてね。」

 修平が教室をでると、美織が他の女子に囲まれて質問攻めにあっている声が廊下まで聞こえてきた。


 修平が教室に戻ると、ヒロが話しかけてきた。

「修ちゃん、数学教えてもらった?」

 修平は、ノートの取り方から教えてもらった話をした。

「そうだね。昨日修ちゃんの英語のノートも見たけど、板書写してるだけでしょ。」

「ノートってそんなものじゃないの?」

「どこが大事か後でわかるように、メリハリは付けた方がいいよ。知らなかったところや、大事と思ったところは、色変えるとか、マーカー引いておくとかして、自分なりに工夫してみるといいよ。」

「そうなんだ。ところで、ヒロは俺が美織と仲良くしているのに嫉妬としないの?」

「修ちゃんが誰を好きになるかは、修ちゃんが決めることだから、嫉妬しても何も変わらないから、気にしてない。それより、修ちゃんの成績が上がって一緒に卒業できる方がいいかな。」

 ヒロの健気な様子に、修平はちょっと惹かれるものがあったが、ヒロは男だということを思い出して、ヒロに惚れてしまいそうな自分の気持ちをひきとめた。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る