28日目 モテ期の悩み

「修ちゃん、おはよう。眠そうだね。」

「3連休、部活漬けだったから、疲れが抜けないんだよ。」

 5月6日の朝、いつもどおり駅から学校にヒロと一緒に向かっている途中、眠そうにしているのをヒロに気づかれてしまった。

 昨夜修平は、美織からの告白が頭から離れずなかなか眠れなかったが、ヒロに本当のことを言うわけにはいかないので適当にごまかすことにした。


「そういえば、団体戦でれるの?連休中に選考会あったんでしょ?」

「ああ、なんとかダブルスで出られることになった。」

「いつなの、応援に行くよ。」

「団体戦が28、29日で、個人戦が次の週だけど、こなくていいから。」

 来なくていいよと言いながら、ヒロがくるなら片桐さんも一緒に来るのを期待して日程だけは教えることにした。


「大森君、おはよう。」

 教室に入ると、片桐さんから挨拶された。他の男子からはひんしゅくを買うのは間違いないが、眠気が一気に吹き飛んだ。

「大森君から借りた漫画、すごくおもしろかったよ。ヒロちゃんから続きの分、また借りしてもいい?」

「いいよ。全部で20巻ぐらいあるから少しずつ持ってくるね。」

「ほかにも何か面白い漫画ある?男子向けの漫画って今まで読んだことなかったけど、女子が読んでも面白いね。」

「スポーツとか、バトル系とかギャクとかいろいろあるけど、片桐さんはどんなのが好き?」

「そうだな~、サッカー好きだから、サッカーの漫画がいいかな。」

「だったら持ってるよ。J3から、戦術を駆使して天皇杯優勝を目指すストーリ。」

「面白そう。テストが終わってから貸して。」

「いいよ。」

 先月までは、片桐さんとこんな会話ができるとは思いもよらず、片桐さんとの仲をつないでくれたヒロに感謝した。


 夕方、部活のために修平が体育館2階に行くと、先にきていた美織が卓球台を倉庫から出そうとしていた。あわてて駆けよって卓球台を出すのを手伝った。

 一緒に卓球台を運びながら、改めて美織の顔をみてみたが、かわいいとは思うが修平の好みのタイプではなかった。

「大森君、手伝ってくれてありがとう。」

 昨日のことがなかったかのように、いつものように美織が話しかけてきた。修平もなるべくいつも通りを装って、

「一人だと大変だろ。それにしても早いね。」

「大会まで1か月ないしね。」

 そんないつも通りの会話をしたが、どことなくぎこちないのが自分でもわかった。


 部活が終わりヒロと一緒に帰ろうとしたが、いつもなら先に校門で待っているはずのヒロが今日はいなかった。

 修平が待っていると、ヒロが慌てて駆け寄ってきた。

「ごめん、珍しく部活が長引いちゃった。」

「そんなに待ってないから大丈夫だよ。」

「修ちゃん、私が遅れたら先に帰ってもいいからね。」

「ヒロと漫画やゲームの話するのも楽しいから、待つよ。」

「ありがとう。」

 駅までいつものようにヒロと楽しく話して駅で別れた。帰りの電車の中、修平は告白を受けた二人のことを考えていた。男だがいつも楽しく話せるヒロか、女子だけど修平の好みのタイプではない美織か、あるいは憧れの片桐さんを追いかけ続けるのか、突然訪れたモテ期に戸惑っていた。


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