第29話はい、答えゲット

 話が終わると、俺はこの店のパフェとコーヒーを注文した。

 情報代のかわりだ。

 甘い物は癒されるなぁ。

 あと普通に美味しかった。


 店を出る頃には日が傾きかけていた。

 帰路につき、俺はあのおばあちゃん店長から聞いた話を頭の中で反芻する。


 纏めるとこういうことだった。


 ■■■


 ・先代【神龍の巣シェンロン】は、あちこちから恨みを買い、憎まれていた

 ・当時、魔物の凶暴化に関しては認知していたし増えていたのも事実

 ・でも、必ずしも討伐でその魔物に当たるとは限らなかった

 ・けれど、当時【神龍の巣シェンロン】が受ける依頼では確実に凶暴化した魔物と遭遇していた


 ■■■


 言われてみればたしかに、と思う部分があった。

 当時の魔物の凶暴化にも魔族が絡んでいたとなれば、すなわち依頼先がすべて実験場だったということになる。

 あちこちに実験場があったのはたしかだろう。

 でも、逆を言えば凶暴化していない魔物もいた、ということだ。

 ピンポイントで、実験場ばかり引くことがあるだろうか?

 ましてや、先代はのだ。

 そう、たとえば難度が低く、褒賞も少ない依頼だ。

 選んだ討伐依頼が、ことごとく実験場のものだったとは考えにくい。


 誰かが意図的に選ばせていた。

 もしくは、どこに討伐に行くのか情報が漏れていたかのどちらかだ。


「案外両方かもなぁ。

 怖い怖い」


 それはそれとして、考えなければならないことは他にもある。

 あの青年のことだ。

 エールの兄であり、先代総長にとてもよく似ているらしいあの男。

 あの男の正体はなんだ??

 死者は歩き回らない。

 なら、よく似ているだけか??

 死者でも、瓜二つの別人でもなんでもいい。

 気になるのは、


「なんで、ニンゲンが魔族に協力している?」


 ここだ。

 この部分。

 なにかしら魔族にあの男が受け入れられる理由があったんだろうと思う。

 というか、二年前にもあの男は魔物を凶暴化させる実験に参加していたのか?

 もしも、二年前にはいなかったのだとすると、あの男は、この二年で魔族と協力関係を結んだことになる。


「うーん、わからん」


 考察は好きだけど、すぐに頭が疲れてしまう。

 やっぱり、俺は体を動かす方が性にあっている。

 エールの方は、収穫あったかなぁ。

 ま、それはそれとして。

 俺は気配を探る。

 人気の無い裏路地までやってきて、


「闇討ちするならお早めに。

 俺は短気なんだ」


 声をかけた。

 冒険者ギルドを出たあたりからずっと尾行けられてたっぽいんだよなぁ。

 闇討ちかなっておもってたけど、そんな感じじゃ無かったし。

 でも、喫茶店出たあたりから、あからさまな殺気向けられたし。

 なんなんだろ、ホント。


 俺が声をかけたからだろうか。

 それとも、人の気配がない場所だったからだろうか。

 俺を尾行していたそいつは、姿を現した。


 それは、人間だった。

 人間の戦士の格好をした、男だった。


「冒険者クラン【神龍の巣シェンロン】が総長、【クラン潰しの……ぶべっ!?」


 俺は戦士へと飛び蹴りした。

 真正面からだというのに、いつぞやのジャーマンスープレックス並に綺麗に決まった。

 やったぜ、ブイ。


 男は盛大に倒れ、俺は華麗に着地した。

 そして、


「さてさて、闇討ちを失敗した戦士さん。

 あなたの所属クランおうちはどこですか??」


 そう訊ねてみた。

 しかし、彼は剣を抜き放って攻撃してきた。

 同時に、立ち上がる。


「とんだ礼儀知らずだな!

 こんなのが、俺たちの後釜かよ!!

 これじゃ、クィンズも浮かばれねぇ」


 おや、おやおやおや??

 これは、まさか!!


「手掛かりが、カモになってネギと鍋を持ってやってきてくれるとはな!!」


 俺の声が弾むのも仕方ないだろう。

 いやいや待て待て、落ち着け俺。

 もしかしたら、自主的に出ていった方かもしれないじゃないか。

 確認だ。

 そう、まずは確認だ。


「ふふふ、お前、先代【神龍の巣シェンロン】のメンバーなのか。

 エールから聞いたなぁ、先代総長達が亡くなって、こんなクランにいる意味ねーっていって出ていった人たちが居たって」


 俺の言葉に、戦士は顔色を変えた。

 そして、俺の言葉を否定する。


「違う!!」


「なにが違うんだよ?

 そうだろ?

 だって、先代の総長をはじめとした幹部は全員死んでる。

 生きているのは、当時アジトにいたメンバーか、別の依頼を受けてたメンバーになる。

 つまり、お前は死んだと思われてた幹部でもなんでもない平メンバーってことだろ」


 戦士が剣をブンブン振り回してくる。

 それを避けながら、言葉を投げた時だった。

 今度は背後から声がした。


「馬鹿、落ち着いてカイン」


 女性の声だった。

 同時に、俺は上へと飛び退く。

 一瞬前まで俺がいた場所。

 そこに地面から天に向かって氷柱が生えた。

 民家の壁を蹴って、屋根へ移動する。

 そして、今までいた裏路地をみた。

 しかし、そこには既に戦士も、声の主兼氷柱の製作者の姿も無かった。


 かと思いきや、背後から斬りかかられた。

 それをヒラリと避ける。

 避けた先で、今度はファイヤーボールが襲ってきた。


「くそっ!全然あたらねぇ!!」


「厄介ね。全くエールったらとんだ掘り出し物を見つけてきたわね」


 女性の方は、魔法使いなのだろう専用のローブを身につけている。

 しかし、動いているからかフードは被っていなかった。

 真っ黒で艶やかな髪をした女性だ。

 瞳の色も黒か。

 肌は白い。

 それにしても、エールのことも知ってると。

 ふむふむ。

 しばらく逃げて、情報引き出すか。

 この調子ならベラベラ喋ってくれそうだし。

 戦士、カインだったな名前。

 カインのやつ、あの女の名前言わねーかな。


「ルーディー、どうするよ?」


「さすが、四天王の一人を倒しただけはあるわね。

 どうしたものかしら」


 はい、女性の名前ゲットー。

 さて、とっ捕まえるか。

 俺は、言葉の続きを投げた。


「それとも、お二人さんは死んだはずの先代幹部だったりするのかな??」


 太陽が沈んでいく。

 その夕陽に、二人が照らされる。

 二人の顔は、驚きに染められていた。

 はい、答えゲット。

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