第6話 組織の偉い人に連行されると、嫌な意味でドキドキするよね

 その後、ほかの冒険者たちから向けられる視線を受け流し、再度依頼を選ぶ。

 ちなみに、マージとかいうあの冒険者は、ギルド内にある医務室へ運ばれて手当を受けているらしい。

 これがいい、あれがいい、とエールと二人話し合っていた時だ。

 子供が冒険者ギルドへと駆け込んできた。


「お願い!!誰か助けて!!

 このままじゃ、村が、村が!!」


 泣きじゃくり、叫ぶ。

 受付さんが、カウンターから出てきて話を聞こうとする。

 それは、十歳にいくかどうかと言う男の子だった。

 男の子が受付さんに、泣きながら事情を説明した。

 それによると、数日前に男の子が住む村に盗賊団がやってきて占拠してしまったらしい。

 それなりに豊かだった男の子の村は、一転独裁政治国家みたいな地獄へと変貌してしまったらしい。

 男の子を含め、何人かが村を脱出して冒険者ギルドやお役所に助けを求めようとしたが、ほとんどが盗賊団に捕まり殺されてしまったらしい。

 運良く、この男の子は生き延びてここまで来れたということか。

 男の子は受付さんに、


「盗賊団の首領の顔はわかりますか??」


 そう聞かれて、依頼が貼り付けてあるのとは別の掲示板を指さした。

 そこには、賞金首の似顔絵が貼り付けてあった。

 それを見て、ほかの冒険者たちが色めきたった。

 高額な賞金が掛けられている盗賊団の首領の顔が、描かれ貼り付けられていたようだ。


「おい、坊主、俺を村に案内しろ」


 冒険者の一人が、男の子へそう声をかけた。

 途端に、自分も自分もとあっという間に盗賊団討伐メンバーが集まった。

 すげぇ、やる気に満ち満ちてる。

 男の子の顔にも笑顔が浮かぶ。

 まぁ、たしかに盗賊団の首領に掛けられている賞金は金貨百枚。

 中流階層の、月の平均的な収入が銀貨七枚であることを考えると大金だ。

 高難度のドラゴンの討伐依頼の礼金が、一頭につき金貨百枚である。

 つまり、首領の強さと厄介さは高難度依頼でのドラゴン討伐一頭分と同じということだ。

 俺も参加したい。

 けれど、俺もエールも盗賊団討伐を受けられるランクでは無かった。

 俺は最底辺のEランク。

 エールは、中堅クラスのCランクである。

 盗賊団とその首領の討伐はBランクから受けられるらしい。

 そして、パーティでの討伐が推奨されていた。


 それを、分かっているのだろう。


 先程のマージとのやり取りを見ていた連中がニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべて言ってくる。


「いくら強くても新人には荷が重い依頼だからなぁ」


 無視する。

 手出し、もしくは口出しさえされなければ基本的に喧嘩は買わない。

 エールの時のは、人助けなのでカウントしない。

 言うだけ言って、満足したのかなんなのか。

 Aランク、Bランク冒険者達がゾロゾロと、ギルドを出ていく。

 その背を、エールと一緒に見送る。


「ウィンさんが入れば一騎当千なのに」


 エールが不満そうに漏らした。

 一騎当千はさすがに褒めすぎだろう。

 俺だって一度に相手したのはせいぜい八十人くらいだ。

 でも、褒められれば悪い気はしない。


「ありがと。

 とりあえず、俺の冒険者ランクを上げるのも当面の目標だなぁ」


 俺はそう言って、エールを宥めた。

 結局、余っていた採取依頼を三件ほど受けることにした。

 全て別々の薬草採取の依頼で、群生地が近かった。

 新人向けの依頼だが、この冒険者ギルドには今は中堅が多くて初心者向けの依頼を受ける者が少ないらしい。

 ほとんどが名前を売りたい冒険者ばかりなので、そういった依頼の方が人気らしい。


 そして、その日のうちに俺とエールは受けた依頼を無事に終え、冒険者ギルドへと報告に戻ってきた。

 すでに町は夕闇に染まりつつあった。

 冒険者ギルドに着くと、なにやら騒がしかった。

 昼間のような喧騒とはまた違った雰囲気で、俺とエールは顔を見合わせて中に入った。

 そこには、ボコボコにされた冒険者達が転がっていて、手当を受けていた。

 その端っこにガタガタと、体を震わせているあの男の子がいた。

 こちらも殴られたのかあちこち腫れ上がっていた。


「何があったんですか??」


 エールが入口近くにいた冒険者の一人に訊ねる。

 話しかけられた冒険者は、この惨状について説明した。

 曰く、件の盗賊団に返り討ちにあったらしい。

 生かして返してくれたのか、優しいな盗賊団。

 というのは冗談だ。

 まぁ、口にすると不謹慎極まりないので黙っておく。

 もちろん、ただ返り討ちにしたわけではない。

 挑発も含まれていたらしく、盗賊団退治に参加した冒険者のうち何人かは首を切り取られ、この生存者とともにその首が送り返されたらしい。


「……あの子は無事だったんだ」


 ポツリと漏らした俺の一言に、一連のことを説明した冒険者が反応してくれた。


「盗賊団の首領に、俺に挑戦したい奴がいたら連れてきなって言われて返されたらしい」


 あー、ってことはあの子、あの様子からしてたぶん首チョンパ見てるな。

 トラウマ植え付けるとか、ヤベェな盗賊団の首領。

 ちなみに、手当をしたくても男の子は怯えて誰も触れさせて貰えないらしい。

 すると、手当のことを聞いたエールが男の子を見る。

 そして、小さく呪文を唱えた。

 それは、回復魔法のようだった。

 見ると、男の子の傷がみるみる消えていったのがわかった。


「エールって、回復術士だったんだ」


「あ、はい。

 お兄ちゃん達、よく怪我して帰ってきてたんですよ。

 で、その怪我を治してたら、これだけは得意になっちゃったんです」


 朝、ちゃんと聞いておけばよかった。

 いや、今のうちに知れて良かったと言うべきだろうな。

 男の子は、怪我が治ったことに気づいたようだった。

 こちらを見て、でもまた顔を伏せてしまう。

 エールがその様子を見て、


「……体の傷は治せるんですけど、心の傷はダメなんです」


 そう口にした。

 そして、手当が間に合っていない者へ回復魔法をかけた。

 男の子と同様に、冒険者たちの怪我が治る。

 その時だ。

 ギルドの奥の方で、声があがった。


「じゃあ、どうすんだよ?!

 仲間がやられたんだぞ?!」


 冒険者の一人が、なにやら食って掛かっている。

 相手は、頭に白いものが混じっている五十路ほどの男だった。

 周囲の反応から、それがギルドマスターだとわかった。

 どうやら、盗賊団によって首をチョンパされた冒険者のなかに、あの食って掛かっている人の仲間がいたようだ。


「盗賊団とその首領の退治の危険度は、そのまま難易度になっている。

 そして、今回の件でそれは跳ね上がった」


 ギルドマスターが拳を握りしめ、苦々しい表情で答えた。

 元々の難度はS。

 それがSSSSSランクへと変更になったらしい。

 悪質さとか諸々加味されたとかなんとか説明している。

 これに伴い、懸賞金も跳ね上がった。

 盗賊団を退治したら金貨千枚になるらしい。


「この依頼を受けられるのは、【英雄】と呼ばれるSSSランク以上だ」


 俗に英雄ランクとも呼ばれる、SSSランク冒険者しか受けられないらしい。

 そして、この街には現在該当する冒険者がいないのだという。

 SSSランク冒険者が所属しているクランもあるにはあるが、出払っているらしい。

 いや、正確には一人居たけど現在入院中なんだって。

 昨日の夜に、新人相手に喧嘩打って返り討ちになったんだって。

 クランの構成員諸共、返り討ちになったんだって。

 そのクランの総長マスターがSSSランクだったんだってさ。

 そんな話が出て、冒険者ギルドにいた面々の視線が、一斉に俺に向けられる。


 ギルドマスターが不思議そうにする。

 受付さんが、ギルドマスターになにやら耳打ちもする。

 途端に、ギルドマスターの目の色が変わった。

 ずんずんと俺の前まで来ると、ガシッと肩を掴まれ、


「ちょっと話がある」


なんて凄みを効かせて言われてしまう。

ちょっと、ブチ切れた時の母さんを思い出した。


「あ、はい」


 そうして、俺は応接間へと俺は連行されたのだった。

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