第2話喧嘩は好き

 それから数時間後。

 美少女とそれぞれ詰所で、一連のことを説明する。

 その後は、簡単な現場検証にも付き合わされた。

 ある意味、滅多に出来ない経験だったので新鮮だった。

 そんなこんなで解放されたのは、すでに日が落ちかけている時間だった。


「それじゃ、ご飯にいきましょう!

 昼間のお礼に奢りますよ!」


 なんて、美少女が言った。

 彼女の名前は、エールと言うらしい。

 まぁ、ここは有難く言葉に甘えよう。


 そうして案内されたのは、どこにでもある大衆酒場だった。

 エールは慣れた動作でカウンター席まで行くと、座った。

 俺にも横に座るよう、椅子をポンポンと叩く。

 俺はそこに座った。


「はい、メニューです!」


「あ、ありがとうございます」


 どうしよう、俺未成年なんだけどな。

 あ、この国だと成人なのか。

 でもなぁ、俺、父さん達と違ってお酒飲めない体質なんだよなぁ。

 お酒を飲んだことは1度もない。

 ただ怪我の消毒で、アルコール塗っただけで、塗った場所が真っ赤になるのだ。

 俺はメニューを見た。

 あ、ジュースもある。

 良かった。

 そこからは、適当に料理も注文して、エールに聞かれるがまま色々話した。


「冒険者さんだったんですね。

 でも、あの強さなら納得です!」


「アハハ、まだ駆け出しですけどね」


「それで、何処のクランに所属してるんですか?」


 エールの無邪気すぎる問に、ちょっと泣きそうになる。


「あの?ウィンさん??」


「んー、クランにはまだ所属してないというかなんというか」


 正確には出来ない、だけれど。

 だって、どこも俺を必要としてくれていない。


「え。ええ!?

 どうしてですか??

 瞬殺であの【龍の鱗スケイル】のメンバーを倒したのに」


 エールに滅茶苦茶驚かれた。

 スケイル??

 あ、一番最初に入ろうとした冒険者クランと同じ名前だ。

 そして、ステータスの確認すらされず門前払いをされたところでもあった。


「ねー、どうしてでしょうねぇ??」


 俺は、また悲しくなってきた。


「あの、差し支えなければ聞いてもいいですか??」


 エールが言葉を選びつつ、そんなことを言った。


「差し支えがあるから、コレ見て納得してくれると助かる」


 俺は、エールにステータスを見せた。

 エールは、驚いて俺を見て、またステータスへと視線を戻した。


「冒険者としては、致命的なんだよね、俺のステータス。

 わかってはいたんだけどさ。

 実家の方だとあまり気にされなかったし。

 ほら、スキルが一個しかない。

 で、魔法も使えない。

 おかげで、どこのクランにも入れなくてさ」


 ははは、と笑って誤魔化した。

 まぁ、そのお陰でエールを悪漢から助けることが出来たから良かったのかもしれない。


「あ、あの、それなら!!」


 エールの言葉と、


「ところでさ、なんでエールはあんな所にいたか聞いても?」


 話題を変えようとした、俺の言葉が重なった。

 その時だった。

 ザワザワと酒場の入り口の方が、騒がしくなった。

 かと思ったら、ドタドタとあの鱗の刺青をした男たちが店の中に入ってきた。

 ざっと十人くらいだろうか。

 あっという間に、俺とエールは囲まれてしまう。

 カウンター席の向こうにいたはずの店員さんも、さらに奥に引っ込んでしまう。

 俺たちを取り囲んだ男たち、その中でも一番身体が大きくて威圧が凄い奴がずいっと前に出てきて、


「おい、エール、護衛を雇ったんだってな?

 そんなことしなくても、お前があの建物場所を譲れば俺たちが守ってやるってのによ」


 なんて言ってくる。

 おやおや、地上げ屋かなんかかな??

 あ、この唐揚げ美味しい。


「大きなお世話よ!!

 それに、あそこは兄さんが創った場所なの!!

 誰があんた達になんて譲るものか!!」


 俺が唐揚げをバクバク食ってる横で、エールが勇ましく答えた。

 この炭酸水も美味い。


「その兄貴が死んじまったんだから、別にいいだろ??」


 そうかー、エールはお兄ちゃんを亡くしてたのか。

 でも、頑張ってそのお兄ちゃんが遺してくれた建物を守ってるんだ。

 いい子だなー。

 あ、このポテトサラダもウマウマ。

 仕事終わりにここに来るのもいいよなー。

 お酒は飲めなくても、こんなに美味しい料理があるなら、毎日通いたい。


「よくない!!」


 エールは叫んだ。

 断固拒否の構えのようだ。


「だって、この人が【神龍の巣シェンロン】の新しい総長マスターになってくれるから!!」


 言って、エールは俺の腕を掴んできた。


「……はい?」


 我ながら間抜けな声が出た。


「だから、アンタらみたいな糞クランなんてお断りなの!!」


 え、えええええ?!

 待って、待って待って待って!?

 ちょ、なに、いつそんな話したっけ??

 エールさーん??

 ねぇ、ちょっと、本人差し置いて話進めないで。

 俺が口を挟もうとした瞬間、大男が俺を見て、嘲笑った。


「あぁ、なるほどね。

 こんなヒョロがりが護衛か。

 うちのは、こんな奴に負けたのか」


 護衛じゃないです。

 と言えたら、済んだんだろうな。

 でも、あぁ、どうしよう。


「テメェ」


 大男が、俺を見て低い声を出した。


「なに、笑ってやがる!?」


 バカにされたと思ったのだろう。

 大男が俺の胸ぐらを掴んで、殴りかかってくる。

 その拳を、手のひらで受け止める。


「!!?」


 大男の顔が驚愕に変わる。

 それを見て、俺はゾクゾクした。

 久しぶりだなぁ、こんな喧嘩!!

 気づいたら、大男を殴り飛ばしていた。

 大男は入り口へと吹っ飛び、ドアも壊して外へと転がっていった。

 うわ、やべ!?

 久々に強いやつと喧嘩できると思ったら、つい。

 なにせ、手合わせすらしてもらえなかったからなぁ。


「すごい」


 横で、エールが呟いた。

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