技は四択が基本

「よし、準備はいいかスザク。狙いはあのフルーツスライムだぞ」

『きゅいきゅい』


 スザクには【自在召喚】というスキルがある。

 これを使えば、俺はどこからでもスザクを呼び出せるらしい。

 となると戦力として数えていい存在なわけだ。

 どのくらい戦えるのか確かめる必要がある。

 というわけで、フルーツスライムと戦わせてみようと森にやってきた。


「今回は絶対に近付かないから」

「あ、ああ。悪いなサリア、ついてきてもらって」


 試したいことがあるので今回サリアも来てもらっている。

 ちなみにルルは留守番だ。

 なんでも一人で考えたいことがあるんだとか。

 今回のメインはスザクなので別に問題ない。


『ぶるるるる』


 フルーツスライムがこちらに気付いた。


「よし、行けスザク! 『体当たり』だ!」


 今回、命令を瞬時に出せるよういくつかの略称を定めている。


 ・体当たり

 ・ひっかく

 ・つつく

 ・羽で殴る


 この中から適宜いい感じのものを選ぶのだ。

 なんとなく四つにしたが、これ以外ないというくらいしっくりくるな。

 ちなみにできそうなら「よけろ!」と指示もしてみるつもりだ。

 当たらなければどうということはないのだから。


『ぶるるるぅっ!?』


 体当たりがヒット。

 今度はスライムが体液を飛ばしてくる。


「よけろスザク!」

『きゅいい!』


 ひょいっ


 よし、ノーダメージで切り抜けた。

 今度はこちらのターンだ。

 せっかくだからあれを試すか。


「スザク、【火炎吐息】!」

『きゅ――ぃいいいいいいいいいいい!』


 ボウッ!


『ぶるるるるるるるるるるるるる』


 炎のブレスによってフルーツスライムを討伐した。

 まだレベル1にしてはなかなかの火力じゃないか。


 スライムベリーがドロップするが、なんか香ばしく焼けているな。

 焼きスライムベリーって美味いんだろうか?


「よくやったぞー」

『きゅいきゅい』


 もふもふもふもふ


 褒めてほしそうだったのでスザクを存分に撫でまわす。

 いい撫で心地だ。


「よくやったけど……とりあえず、俺が指示するやり方はなしだな」

『きゅい!?』


 せっかく覚えたのに! みたいな顔をされた。


 実際やってみてわかったけど、スザクはかなり賢いし、自分の判断で動かせた方がいいと思ったのだ。


「今回は無事に済んだわね」


 前回フルーツスライムの体液を浴びたサリアが、安堵の溜め息を吐いている。


「はは、あんなことはそう何回もないよ」

「それならいいけど。……っていうか、あたしはなんで連れてこられたの?」

「スザクの【火炎耐性】ってスキルを試したいんだ。どのくらいの火力まで耐えられるのかと思って」

「なるほど」


 というわけで実験その二開始。

 サリアの炎魔術をスザクに当てていく。

 結果、スザクはかなりの高温に耐えることはできるが、爆風に弱いことがわかった。

 単純にレベルが低いせいで体がまた丈夫じゃないんだろう。


『きゅい……』

「なかなかやるじゃない。ほら、体拭いてあげるからこっちにきなさい」


 サリアがスザクのすすをぬぐってやっている。

 その姿は面倒見のいいお姉さん、という感じだ。


『きゅい!』


 綺麗になったスザクは、焼きスライムベリーを拾ってサリアのもとに持ってきた。

 どうやらお礼のつもりのようだ。


 ……ん?

 なんかあの焼きスライムベリー、ぶよぶよした塊がついてないか?

 あれはまさかフルーツスライムの核じゃ――


『きゅーい』

「あら、くれるの? ありが」


 ばしゃっ! 


 スライムベリーにへばりついた核(フルーツスライムの心臓部)は、スライムベリーを受け取った直後のサリアの手で弾けて飛び散った。


「な、なんでこうなるのよ……っ!」

『きゅ、きゅい……』


 粘液まみれになったサリアが唸り、スザクが慌てたように羽をパタパタさせる。


 ……サリアってもしかして運が悪いんじゃないか?





「あ、いたいた。ユークさん!」

「ん?」


 帰りがけに冒険者ギルドを通りかかると、いつもの女性職員に呼び止められた。


「どうかしたんですか?」

「ユークさんのジョブについて調べてみたら、少しだけわかったことがあるのでおしらせしようと思いまして」

「魔剣士のジョブについてなにかわかったんですか?」


 これは気になる。

 なにしろいまだにこのジョブにどんな効果があるのか謎のままなのだ。


「残念ながら、過去の冒険者の中に魔剣士のジョブを持っていた人はいないようです」

「そうですか……」


 やはり本当に魔剣士は珍しいジョブのようだ。


「なのでジョブの効果については不鮮明なままですが、その魔剣を作った人の噂がありまして」

「鍛冶師の?」

「はい。魔剣というのは普通の鍛冶師では作ることができません。魔術と鍛冶の技術に秀でた超一流の鍛冶師のみが作れるものなのです。……ですが、そんな彼らは魔剣をわざわざ作ろうとはしません」

「さすがネタ装備ね……」


 サリアが呆れたように呟く。

 すごい技術を持つ一流鍛冶師たちにとって、魔剣はわざわざ作る価値のないものだと。


「ですが一人だけ、好んで魔剣だけを作る人物がいるそうです。なんでも今流通している魔剣のほとんどはその人物が作ったもののようですよ」

「へえ、そんな人がいるんですね」


 ということはこの魔剣もその人物が作ったものなのかもしれない。


「まあ、いつも旅をしているのでどこにいるのかは謎だそうですが。その人物であれば、もしかしたら魔剣士について何か知っているかもしれません」

「わかりました。もし見かけたら聞いてみます」


 お礼を言ってその場を後にする。


 魔剣だけを作る変わり者の鍛冶師か。

 ちょっと会ってみたいな。





「明日、もう一度リオレス山地に行ってみてもいいか?」


 俺は夕食のタイミングで、ふとそんな提案をした。

 サリアが聞いてくる。


「リオレス山地に? なんで?」

「理由ってほどのことはないけど……この前行ったとき、山頂に青い光が見えたって言っただろ? どうもあれが気になってるんだ」


 気のせいだと思ったけど、それにしては妙にはっきり見えた気がした。

 リオレス山地の山頂は『転移のブレスレット』に登録してあるので、行くだけならすぐできる。


 ブレスレットは一日あたり往復一回分なので、なにもなければ無駄足になってしまうが……まあ、そうなったら薬草でも採取すればいいだろう。

 あの山には貴重な植物も生えていることだし。


「あたしは別にいいわよ」

「……ん、わかった」


 サリアはあっさり頷き、ルルも少し考えてから首を縦に振る。


「ルル、なにか気になることでもあるのか? この前から少し変だぞ」

「……明日の夜まで待って。それまでに話すか決める」

「わ、わかった」

「ごめん。でも大事なことだから」


 うーむ。

 ルルは一体なにをそんなに気にしているのやら。


 まあ、明日には教えてくれるそうだから、今気にする必要はないか。

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