望まぬ再会
「ん? おや、誰かと思えばユークじゃないか。はは、まだ冒険者なんてやってるのか? 君みたいな落ちこぼれが物好きだなあ」
俺に気付いたレイドが馬鹿にするように言ってくる。
「……俺の勝手だろう。それより、他の三人はどうしたんだ?」
「キャシーたちは宿で寝ているよ。昨日は僕たち『雷鳴の剣』が真のメンバーになった記念すべき日だから、酒場で盛大に祝っていたのさ」
ずきりと胸が痛む。
真のメンバー。その中に俺はいない。
「……なによ、この空気?」
俺たちの険悪な雰囲気にサリアが首を傾げる。
レイドは俺に興味をなくしたとばかりにサリアに言う。
「そんなことより<火竜の魔女>サリア、僕のパーティに入りなよ。『銀狼旅団』に在籍していた君なら僕の仲間にふさわしい!」
俺はレイドの言葉に耳を疑った。
「『銀狼旅団』!? 『銀狼旅団』っていったのか!?」
「そうだよ。君みたいなカスでもその名前くらいは知ってたか」
『銀狼旅団』というのは最強と言われるSランクの冒険者パーティの名前だ。
特徴はその徹底的な実力主義。
メンバーは二十人に固定され、パーティ内での序列がつけられている。そして新規加入者はメンバーの誰かを倒さなくてはならない。
サリアはそんなところに所属していたのか。
……ん? じゃあなんで一人でこんなところにいるんだ?
「――その二つ名で呼ばないでくれる?」
ぎろりとサリアがレイドを睨んだ。
うおお……すごい迫力だ。確かにこれは竜っぽいかもしれない。
レイドも「うっ」と怯んでいる。
「……ま、まあいいさ。それじゃあ今日から僕たちは仲間だ。他の仲間を紹介するよ」
「だからあんたとは組まないって……」
サリアはそこで俺を見た。
なにか思いついたような顔をしている。
それからこっちに駆け寄ると、ぎゅっと俺の腕を掴んだ。
「あたしはユークとパーティを組んだの。だから付きまとわないでくれる?」
「はっ?」
聞いてないんだが!?
レイドはわなわなと震えだした。
「じょ、冗談がきついなあ。神託の勇者である僕より、その落ちこぼれがいいって?」
「そうね。ユークのほうが頼りになるしー、優しいしー」
まるで恋人がそうするように体を密着させてくる。
そのたびに、むにゅ、と柔らかい感覚がして俺は動悸が止まらない。
こいつわざとレイドを煽ってるな……!?
「……いい加減にしてくれるかな。僕を怒らせてただで済むと思うのかい?」
レイドが剣を抜いた。
聖剣と呼ばれる勇者専用の剣だ。
これはまずい。
俺はサリアを庇うように前に出た。
「レイド、周りを見てみろよ」
「周りだって?」
レイドはゆっくりと視線をめぐらせた。
するとギルド中の人間の注目が集まっており、非難の視線はレイドに集中していた。
冒険者ギルドは国との結びつきが強い。神託の勇者であるレイドは強い立場にあるが、だからといって国王に対してまで好き勝手出来るわけじゃない。
「……チッ」
レイドは頭が冷えたのか、剣を戻し、作り笑顔を浮かべた。
「今のは冗談だよ、サリア。……気が変わったら僕のところに来るといい。ユークなんかより僕たちと組んだほうが百倍ましだって、すぐにわかると思うよ」
表面上は笑っているが、レイドの手が震えている。
パーティを追い出した俺を理由にサリアを引き入れ損ねて、相当悔しいようだ。
去っていくレイドの背中に向かってサリアが舌を出す。
「べー。誰があんたなんかのとこに行くかっての」
「好戦的だな、お前……」
勇者相手にこの態度はなかなかできないぞ。
▽
「そういえば、なんでユークはギルドにいたの?」
俺とサリアはなんとなく連れ立ってダンジョンに向かっている。
その途中でサリアがそんな質問をしてきた。
「お前を待ってたんだよ」
「あたし?」
「俺とパーティを組んでくれ」
「嫌」
仕方ない、説得のやり方を変えよう。
「昨日お前の危ないところを助けただろ。それに目が覚めるまでベッドを貸した。そのことの代金として俺のダンジョン攻略を手伝ってくれ。もちろん臨時でいい」
「むっ……」
サリアはしばらく俺にジト目を向けてから仕方なさそうに頷いた。
「……はあ、わかったわよ。組めばいいんでしょ。でも、このダンジョンの間だけよ」
「ああ。助かるよ」
「ユークってとんでもないお人好しよね」
「別にサリアが心配だっていう理由だけじゃないぞ。俺にも打算はある」
サリアの強力な遠距離魔術はダンジョン攻略を行う上で大きな力になる。
狭い通路では使いにくいだろうが、それも地形次第だ。
「あと、さっきは悪かったわね。巻き込んじゃって」
「レイドのことか? 一体どうしてあんなことになったんだ」
「普通に道を歩いてたらいきなり声をかけられたのよ。なんであたしのことを知ってたのかしら……」
疑問符を浮かべるサリア。
「前にどこかで会ってるんじゃないか?」
「どこかでって……あ、思い出した! あたしが前のパーティにいたとき、弱っちい連中が狩り場にうろついてたから助けたのよ。そのときのパーティリーダーがあいつだったわ」
やっぱりサリアとレイドは前に会っていたようだ。
それにしても勇者を「弱っちいの」って。
おそらくレイドがこの街に来る前のことだろうし、当時のレイドはまだ弱かったのかもしれないが……やはりサリアがあの『銀狼旅団』に所属していたのは確かなようだ。
「あいつ、ユークと知り合いなわけ?」
「神託の勇者だよ。名前はレイド・アークレイ」
「あいつが言ってたこと、本当だったのね……。神託の勇者って、聖剣を操って魔王を倒すっていう神の使徒のことでしょ? あんなのが未来の英雄なんて世も末ね」
その点については反論できない。
ダンジョンの入り口までやってきた。
「あたしは最下層まで行くつもりだけど構わないわね?」
「ああ。俺もそのつもりだ」
ここのダンジョンボスは転移アイテムをドロップする。
それを手に入れるために俺はダンジョンを踏破すると決めたのだ。
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