ファラ
ワイバーンの素材をダンカンさんの店に運び、めでたく魔剣は俺のものとなった。
ダンカンさんはワイバーンの鱗や牙、爪はすべて引き取ったが、肉は好きにしていいと言ってくれた。
ワイバーンの肉は高級肉だ。
俺は一抱えほどをハンナさんに渡し、残りは大部分を肉屋に売ってから、一番脂の乗った旨そうな部分を持って帰った。
「ただいま、ファラ。お土産を持ってきたぞ! ワイバーンの肉だ!」
「おかえりなさい、兄さん。ワイバーンなんて、すごい相手を倒したんですね」
妹のファラがにこにこと笑って言う。
ファラは俺のような黒髪とは違う、輝くような金髪を肩まで伸ばしている。
病気のアザを覆うため、左側の目元を前髪で隠しているが、それでも相当な美少女だ。
いや、兄だから身内びいきしてるとかじゃなくて。
ファラは病気の都合で家から出られないんだが、男の客が来るたび、ファラに見とれているほどなので間違いない。
「せっかくですから、ステーキとシチューにしましょう」
ワイバーンの肉はファラによって調理され、じゅうじゅうと肉汁を飛ばすステーキと、うまそうなシチューへと姿を変えた。
「うまっ!」
「わあ、本当に美味しい……口の中でとろけるみたいです」
評判通りワイバーンの肉はとんでもない旨さだった。いくらでも食べられる。
勇者パーティにいた頃の報酬は、ファラの薬を買ったうえで、なんとか生活していけるくらいの額でしかなかった。
こんな贅沢をしたのは久しぶりだ。
「ファラは本当に料理上手だな」
「私にはこれくらいしかできませんから。今度、またレイド様たちも連れてきてください」
「……っ」
思わず言葉に詰まる。
そうだ。ファラは俺が追放されたことをまだ知らないのだ。
俺は夕食を食べ終えると、ファラと話をした。
「ファラ。実は俺はレイドたちのパーティを抜けた」
「そんな! なにかあったんですか!?」
「あいつらは勇者パーティだから、俺より強いやつと組みたいそうだ」
「……私のせいですか? 私が病気で、兄さんがこの街から出て行けないから……」
ファラがつらそうに言う。
ファラの病気は特殊で、普通にしていれば何の問題もない。
しかしそれはこの家にいる時だけだ。
今はもういない両親によって、この家には聖なる結界が張られている。
この中にいる間だけ、ファラは普通に過ごすことができるのだ。
この家を一歩でも出ればファラは苦しみ、動くことすらできなくなる。
ゆえにファラと一緒に暮らしている俺もこの街を出て行けない。
ファラは俺がレイドのパーティを抜けた原因がそれだと勘違いしたらしい。
「ち、違う! 単純に俺の実力が足りてないからだ!」
「でも……私は兄さんに迷惑ばかりかけています」
「そんなこと言うな!」
俺は思わず声を上げた。
びっくりしたように顔を上げるファラに、できるかぎり優しく伝える。
「……俺は、ファラのためだから頑張れるんだ。お前のために冒険者を続けることは全然苦しくない。だから気にしなくていいんだ」
「……はい」
俺の気持ちが伝わったのか、ファラの表情から暗さが消えていく。
「それに、ファラが料理を作ってくれるから毎日幸せだしな」
「え?」
びし、とファラの動きが止まる。
それから早口で、
「ま、まあ、家族ですし当然です。普通に適材適所で役割分担してるだけです」
「将来ファラと結婚する男が羨ましいよ。ファラくらい可愛くて料理上手な女の子はそうそういないだろうし」
「~~~~っ! もう、変なことを言ってないで兄さんは洗い物をしてください!」
え、なに? なんで怒ってるんだ?
なんだかわからないが機嫌を損ねてしまったらしく、ファラはそれ以降しばらく視線を合わせてくれなかった。横顔が若干赤いのが気にならないでもない。
洗い物をしながら、改めて思う。
頑張ろう。
妹が普通に暮らせる、今の生活を守れるように。
▽
冒険都市レイザール。
それが俺とファラが暮らす街だ。
この街の近くにはダンジョンがあり、多くの冒険者がダンジョンで魔物を倒して稼ぎを上げている。
レイドたち勇者パーティがここに来たのも、もともとダンジョンでレベルを上げるためだったはずだ。
「よし、行くか」
俺はダンジョン――正式には『レイザールの岩窟迷宮』へと足を踏み入れた。
現在の俺の冒険者ランクはF。
レイドたちは勇者パーティということでSランクだが、そこを抜ければもともとの個人ランクで評価される。
勇者パーティ所属前の俺といえば、遠距離魔術を使えないポンコツ光魔術だったので、Fランク扱いも当然と言えるだろう。
今の目的は冒険者ランクとレベルを上げることだ。
光魔術で周囲を照らしながらダンジョン内を進んでいく。
『オオオオオッ……』
「ストーンナイトか」
このダンジョンはとにかく防御力の高い敵が多い。
このストーンナイトもジョブ補正なしの剣術や、俺の貧弱な遠距離魔術では傷ひとつつけられないほど硬い。
もちろん、今まで俺は勝ったことなどない。
俺は魔剣を構え、ヴンッ! と光の刃を出現させる。
ザシュウッ!
『――――!?』
ストーンナイトの盾ごと鎧を切り裂き、戦闘は終わった。
うん。
「この剣強すぎるだろ……!?」
薄々思っていたがわかってしまった。
この剣、ガード不能だ。
光属性魔力がもともと高威力なのに加え、カンストした【近接魔術】スキルによって威力がさらに上昇。
そこからさらに【身体強化】を使った俺の腕力まで斬撃に乗るのだ。
冗談抜きにこれで斬れない相手なんかいないような気がする。
俺は次の獲物へと突撃する。
「うおおおおおおお!」
ザシュッ! ズバッ! ザンッッ!
『『『ギャアアアアアアアアアアアアア!』』』
魔物を見つけては斬りまくる。
ストーンナイト、ストーンゴブリン、ガーゴイル。
すべて一撃だ。
強すぎるぞ、この魔剣!
『グルオオオオオオオオオオオオオッ!』
「おっと!」
通路の影からいきなり現れたストーンオークが襲い掛かってくる。
待ち伏せしてたのか?
俺はほとんど直感でそれをかわした。
なんとなく、あのあたりは危険だぞという気配を感じていたのだ。
「今度はこっちの番だ」
ザシュウッ!
『グルガァアアア……』
ストーンオークを倒した。
しゅわんっ。
俺の体が光に包まれる。
ということは……
ユーク・ノルド
種族:人間
年齢:18
ジョブ:魔剣士(光)
レベル:30
スキル
【身体強化】Lv5
【魔力強化】Lv1
【持久力強化】Lv2
【忍耐】Lv2
【近接魔術】Lv10
【気配感知】Lv1
やっぱりだ!
新しいスキルが増えている。
【気配感知】は敵の居場所を探り当てるスキルだ。
さっきのストーンオークの不意打ちをかわしたことがきっかけで発現したんだろう。
今の俺には仲間がいないので、こういう死角を潰せるスキルは有用だ。
さっそく使ってみる。
「【気配感知】!」
目を閉じ意識を集中すると、あたりにいる魔物や他の冒険者の気配を掴めた。
範囲はまだ半径五メートルほどだろうか?
これはスキルレベルが上がっていけば広がっていくだろう。
これで不意打ちに怯えなくて済むな。
【気配感知】を使いながら進んでいく。
ん?
この壁に【気配感知】が反応している。
なにかあるのか?
試しに、トントン、と叩いてみる。
奥で音が響いてるな……
「ふっ!」
ドガッ!
試しに壁を蹴ってみると、ボロボロと壁が崩れた。
その奥には――地図にも載っていない、隠し通路があった。
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