第5話 アラサーの種

「いやさ、雅弥の子供って、魔王にも勇者にもなんにでもなれる種を持ってるって聞いたから」

「は?」


 何を言うておられますのかね。この茶トラ、ボーイッシュケモ耳。すんごいやばいこと言っているのわかっておりませんかね。

 頭くらくらしてきた。

 いつも通り帰ってきて、疲労が増しているところに、マオウが言ってきた爆弾発言。いやさ、理由が僕の種ってさ、古いラブコメみたいな話か、エロマンガの話でしか聞いたことがないよ。

 とりあえず、冷蔵庫の梅酒(ビールは苦手)を飲んで、気分を少しだけほろ酔いモードにしようとする。別名、現実逃避ともいう。


「お酒に逃げるのはいけない。まあ、私はどちらかというと、同情して守ってあげるためにここにいるの。まあ、顔はイケてないけど、長い付き合いだったから、別に子供を作ってもいいとか思っていいとか、いないとか。まあ、異種交姦だから、生まれにくいところもあるから、何とかなると思うけど」


 左手人差し指と親指で輪を作って、右手の人差し指を入れながら、そのセリフは生々しすぎるアウトだ、マオウ。


「余計に酔いが醒めそうなことを言うな。というか、何でそんなことになっている?」

「だってさ、雅弥って異世界を救ったんでしょ。んで、そこにいた女の子にはみんなふられて泣いて帰ってきた。すごいよね。異世界の能力を引き継いでいるけど、ひた隠しにしている痛いDTって聞いたことがある。で、そのDTを30まで守っていたせいで、子供には強いパワーが宿ることが確定してるって、異能力者の世界では有名だよ」


 なんというわけのわからんことが飛び交うんだ。異能力者の世界。理解が一切できません。あと、DTと、連発しないでくれ。泣きたい。

 あと、振られて泣いて帰ってきたとかいうな。みんななぜかイケメンの男があてがわれていて、フツメンの僕では釣り合わなかっただけだい。

 

「というかさ、僕、アラサーだけど、29歳です。ぎりぎり30歳ではありません。わかっているよねマオウ」

「明日誕生日だよね」


 確かにそういえば、明日誕生日でした。

 9月4日。30歳DT。魔法使い。


「ま、でも、強すぎてさ、相当母体が強くないと子が宿せないから、安心して。変なリャイヌは来るかもしれないけど。私が守ってあげる。まあ、私が宿して、夜の魔王にでもしてあげてもいいんだけどさ――できれば、種をもう少ししてから」


 と言って、マオウは僕の尻に尻尾をこすりつけてきた。


「だったらさ、今すぐお前が僕の童貞を奪えば」

「面白くないからヤダ! 種クレ」


 ですよね。それが猫又というか、猫っぽいマオウさんっぽいですよね。

 明日からどうなるの僕。


 あと、年頃の女の子見た目の子が種とか言わない!


――で、そんなこんなで、9月4日0時になってしまったわけでして。


「こんばんは!」

 という何かかわいい声が1DKのドアの先から、聞こえてきましたわけです。


「これは夜の魔王になるのか。雅弥。私も鼻が高いよ。マオウの飼い主はやっぱり、魔王でしたとさ。アラサーだけど。しょっぽいアパートのアラサーだけど」

 アラサーは余計だ。マオウ。繰り返されると余計にみじめだし。

 泣いてもいいかな。

 

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