可愛い彼女は雪女

月那

可愛い彼女は雪女



それは寒い寒い雪の日だった



残業で終電を逃し、近場のカプセルホテルでも、と探していたところで彼女と出会った


今降っている雪と同じくらい白いんじゃないか、と思うほど彼女の肌は白く、また、真っ白のコートに真っ白のブーツ、そしてそれら白さと相反する腰まで伸びた美しい黒髪


その白と黒のコントラスト

切れ長の瞳はどこかぼんやりと斜め上を見ているようで、何も見てないみたいで


すると、僕に気付いたようで


「こんばんわ♪」


その瞳を少し丸くさせて話しかけてきた彼女。見た目とそのテンションのギャップが半端ない……


「え、えっと……こんばんわ…?」


うふふ、と微笑む彼女


「私、ずっと一人きりでどうしようかな、って思ってたけど、やっと見つけた♪」


「えっと、僕…ですか?」


コクリと頷いて言う


人に会えたのなんて何年ぶりかしら♪」


ん?……おっと、これはやばそうだぞ

いくら会社で邪険に扱われ、普段から影も薄くて友達もいない僕でもさすがに分かるぞ

この子も僕と同類なのかもしれないけど、ちょっと拗らせすぎじゃないの?



「私、雪女なんですよね♪」


えへへ、と笑う彼女は信じられないくらい可愛くて、僕はドキドキしてしまったのだった




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「で、少し落ち着こうか」

「私は落ち着いてますよ?」


コテン、と首を傾げる彼女。可愛いすぎか


「あ!信じてない顔してます!!」


ぷんぷん!とわざとらしく怒ってますアピールをしてくる彼女。可愛いすぎか


彼女いない歴=年齢 の僕には刺さりまくる


「とりあえず、雪女さん?ってことで話進めていいのかな?」


自分と同類、若しくは僕以上かもしれないと感じた優越感からか、普段の僕からは考えられないくらい上から目線で問いかける


そんな僕の心を知ってか知らずか、彼女は

えへへ♪と嬉しそうな笑顔で「そうですよ」と答えてくれた


はぁ。こんなに可愛いのに何があったんだろう。可哀想になってきた……うぅ……


彼女の無邪気な笑顔を見ているとなんだかいたたまれなくなってきた

僕は少し涙ぐむ


「え!?ど、どうしました?」


急に僕が泣きそうになったからか、あわあわと慌てる彼女

ほんと、それだめだよ?可愛すぎ


「あ!私が雪女だから「連れて行かれちゃう」って思って辛くなっちゃいましたか?」


あ、まだその設定は続けるのね


「大丈夫です!!」


ふんっ!と、ドヤ顔で胸を張る彼女

可愛いs…(以下略)




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「で、雪女さんは何しにここに?」

「その前に、「雪女さん」とか他人行儀で私的には嫌なんで、雪子って呼んで下さい」


無表情のマジトーンで言ってきた

ちょっと怖いなと思ったのは内緒だ


いや、それ以前にたいして変わんなくない?


と思ったけど、なんとか思っただけで口から言葉は出なかった。うん。僕頑張った


「…で、雪子さんは何しにここへ?」


「やだ…照れる……」


頬を少し桜色に染めもじもじする彼女

いや、本当にそれ、さっきからわざとだろ

あざと過ぎるぞ……


「…えっと……何に照れるんだろ」

「だって、だって……」


少し俯いて目線を外し、両手の人差し指をちょんちょんと合わせてる


くそっ!だから可愛いって言ってるだろ!

なんなんだよ!

こっちは可愛い子に、それ以前に女子に耐性なんかないんだよ!


そんな行き場のない怒りを抱え始めた僕を尻目に、彼女は告げる


「だって…初対面で名前で呼ばれたら……」

「いやいや、君が名前で呼べって言ったよね?しかも半強制的な勢いだったよね?」


つい被せ気味に言ってしまう僕

でも彼女は「いや~ん♪」といった感じで身体をくねくねし始めた


はい出たー。絶対これわざとー


「……もういいや。で?なんだっけ?」

「ん?何と言いますと?」

「その雪女の雪子さんはなんでこんなとにいるんですか?僕にどうして欲しいんです?」


ちょっとだけ彼女に耐性がついた僕は少し強気に出てみる

するとまたもじもじしながら

「…そりゃ、雪女が男の人に声掛けたら、えっと、つまり、そういう目的というか……」


最後の方はゴニョゴニョと声も小さくなって誤魔化された感はあるけど


「……今日、泊まるとこ探してたんですよね?…えっと……よかったら私と一緒に……

その、あの………」


「キャっ!」っと恥ずかしそうにしてるけど

結局なんなんですか?

ついついジト目で見てしまう僕


すると彼女も意を決したのか


「ホ、ホテル行きましょう!あの、その、えっと……お、のっ!!」







…………………はい?





┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


という訳で、何が悲しくて人生初ラブホが自称雪女とか言ってるイタイ美少女なんだろ



なんてカッコつけてみるものの普通に緊張する。分かりやすくテンパってる

段取りもよく分かんなくておろおろする


そんな僕を見ながら微笑ましいものを見るような暖かい視線を送られる


はぁ…

なんかもうどうでもよくなってきたな

好きにするといいよ!!




と、半ば開き直った僕はとりあえず寒かったしシャワーを浴びることに


「一緒に入る?」と聞いてみると「冷水でもいいのなら」と言うので一人で入る

その設定やたら引っ張るな




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



ただ今一緒にベッドに入っている状況


素人童貞の僕的にはこれは初かも

なんて思ったけど、実はこの子プロかも

と思うとやっぱまだまだ先かぁ、と


一つ確かなのは、彼女の身体は冷たい

いやいや、まじかよ…

……本当に雪女とか、言わないよね…?


「緊張してるの?」

うふふ、と微笑みながら僕の頬を触る


あ、手もちょっと冷たいかも


すると彼女は僕の胸に顔を当て

「ふふ、ドキドキしてるね」

と悪戯っぽく言う

いや、いろんな意味でドキドキしてる

ま…まさか……本当に……?


気が付くと僕の唇は柔らかい何かで塞がれていて、いい匂いがして、なんか甘くて、それでいてちょっとひんやりしてて


「…ん……!」


あ、舌が……


なんか蕩ける………



ゆっくり目を開けると、彼女のその双眸も蕩けきっていて


「····ねぇ……触って?」


形の良いその胸に手をかけると、彼女は敏感に反応し、僕の背中に手を回しギュッと抱きしめてきた


「んぁ……!」


先端のその蕾に触れると体をビクッと反応させ、僕の首を軽く噛む

そこから舌を這わせていく彼女


あ、耳は……


「ふふ、耳弱いの?」


蠱惑的な眼差しで見つめながら甘噛みされる



ああ、もう……僕は……



少しひんやりしてると思ってた彼女の体も

次第に熱を帯びてくる……




そして、僕達は一つになった








┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「ありがとう」


「え?何が?」


「だって、初対面の私としてくれて」


「あ、うん。こっちこそ……」


「これで暫くはまた大丈夫かな」


「え?」


「男の人の精力もらったから、また何年かは大人しくしてられるよ」


「……それってどういう…」


「私達雪女はこうして交わることで生き永らえるの。あ、絶対しなきゃダメってわけではないんだけど、ただ、こうした方が…ね」


少し寂しそうな顔でそう告げる彼女は心の底から綺麗だった


「いちお私も誰でもいいわけじゃないの。

好みのタイプだってあるし、今の私でも見える人じゃないとダメだし」


「今の私、って?」


「枯渇するとね、暴走しちゃうの。見た目もそれこそ化け物じみた風になるみたい」


あはは、と力なく笑う


「そんな姿にはなりたくないし、人に危害も与えたくないから」


なんか優しい子だな


「満たしてくれたお礼しなくちゃね」


と言って彼女は微笑む


「何かして欲しいことある?例えば今の務めてるとこ辞めてもっと楽しく暮らしたい、とか。あと、可愛い彼女が欲しい、とか」


「え?そんなこと出来るの?」


「直接的には無理だけど、きっかけは作ってあげられるよ。どう?」



今日彼女と出会ってからの事を思い返す


最初は「何言ってんだこの子」って思ったけど、接してるうちに普通に可愛くていい子だな、って思ってる自分がいた

それに、その、あっちもよかったし……

いや、それは置いといて

うん。やっぱ可愛いよな


「あのさ……。無理ならいいんだけど……」


「決まった?」


「彼女になってくれないかな…?」


「…………ん?」


「雪子ちゃんと付き合いたい…とかダメ?」


「え?いやいや、本気?」


「うん…やっぱ無理かな……」


「私、雪女だよ?たぶん妖怪だよ?」


「……」


少し困った風に言う彼女


でも僕は、やっぱり惹かれてしまったんだ

真っ白な装いに綺麗な黒髪

ぼんやり空を見上げる彼女を初めて見た時、ゾッとするほど綺麗だと思った

言ってる事に少し引くことはあったけど、

うん、たぶん一目惚れってやつだと思う


今の生活なんか何も楽しいことも無い

仕事に追われ会社でも蔑まれ

でも、彼女と一緒にいられたら


あれかな、たぶん僕、あんまり経験豊富じゃないし、エッチして尚更好きになったのかも



僕の様子を見て察してくれたのか「しょうがないなぁ」と言って微笑む彼女


「じゃ、しばらく一緒にいよっか♪」






これから僕、どうなるんだろ

でもいいんだ

この先のことは全然想像もつかないけど、

でも、今僕は間違いなく幸せだから







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