第17話 通報

 今まで、猫の集会所(私の家の一番前の部屋)にはいろいろなものが持ち込まれている。勿論、猫たちによって。


 松ぼっくり、サンダル片方、手袋片方、手帳など。

 松ぼっくりはいいけど、ほかは困る。どこから持ってきたのかわからないが、人の物だけはやめてほしい。


 手帳は持ち主の名前が書いてあったから、たぶん近くの事業所の人のだろうと思って「落ちてましたけど、こちらの社員さんに〇〇さんっていらっしゃいますか?」って持って行ったら、正解だったから良かったけど。


 口が裂けても「猫が持ってきました」とは言えない。猫が窃盗罪、私が窃盗幇助で逮捕されかねない。


 生き物もやめてほしい。私が見つけたときには死体になっちゃってるけど。

 トンボ、ネズミ、ひな鳥、セミ、トカゲかイモリかヤモリかわからんやつ。

 そのうちに人が転がってるんじゃないかとヒヤヒヤする。浅見光彦ミステリー「猫伝説殺人事件」。


 全部、私が片づけるんですから。死体遺棄罪。


 警察から電話が掛かってくるのを恐れていたら、保健所から電話が掛かってきた。

 私の家から出てくる猫が道路を横断するので、危なくて迷惑しているとドライバーから通報があった、ということだった。


 このあたりに猫が捨てられて、近隣が糞尿被害にあっているので、猫トイレを設置して利用させているだけで、私が飼っているわけではないと説明した。半分は詭弁だが。


 しかし、どうも通報したのは近隣の人らしいニュアンスだった。そうなると旗色が悪い。猫が出入りしないように、出入口を閉めておくよう要請されてしまった。


 飼い猫にしろということか。もう半分、なっているようなものだが。


 私はない知恵を絞って考えた。近隣とのトラブルを避けた上で、猫の自由を守る策はないか?


 そこはそれ、私程度のおつむで良策など思い浮かぶはずもない。


 私が考え出したのは、「日中は出入口を閉め、夜だけ開けておく」という折衷案だった。


 集会所に今いる猫たちは、ほとんどが血縁関係にある猫で、外様の野良猫は一匹しかいない。

 周辺に野良猫は、本当に見かけなくなった。今いるのは、外様のハチワレを除けば、いつからいるのか定かでない黒猫のおばあちゃんと、その子であるキジトラの母猫と、生まれた時期の違うその子猫たちだけだ。


 出入口を閉めたらどうなるかは、一応試してはみた。ほかの猫たちは不満そうなそぶりを見せただけだったが、ハチワレだけが哀しそうに大声で鳴き始めた。


 そこで私は、ハチワレだけを別のルートから外へ出してやった。そうして夜九時まで出入口を閉めっぱなしにし、それから解放したら、おばあちゃん猫と一番上の孫猫を除いて、みんな外へ出て行った。


 問題はいつ出入口を閉めるかだが、朝の通勤通学時間帯になってしまっては、開けているのがバレてしまうのでまずい。

 だから夜明け前の午前三時にする予定で、その時刻に起きた。


 ところが、猫たちが全員そろってない。必ず誰かがいなくて、そいつが戻ってくる前に別の猫が出て行ってしまう。閉めるタイミングが見つからない。

 最初の日に出入口を閉めることができたのは、確か午前四時半ぐらいだったと思う。結局一時間半もの間、猫がそろうのを待ち続けたのだ。


 明日以降はうまくいくのか、それともこれからもこんな事になるのか?

 明日はどっちだ?



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 近況ノートに、以前集会所に来ていた珍しい猫の写真を掲載しました。ご覧ください。

   ↓

https://kakuyomu.jp/users/windrain/news/16817330648481064005

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